コラム:ロシア便り
033:ロシアの公共交通
ロシアに限らず世界の主要都市を旅すると、団体旅行でもしない限りお世話になるのが、公共交通である。ロシアの場合、タクシーを除けば、主な公共交通機関として挙げられるのがバス、トロリーバス、マルシュルートカ(小型の乗合バス)、市電(トランバイ)、地下鉄だろう。いずれの場合も、距離にかかわらず同一運賃なので、遠くまで行く場合はかなりの割安感がある。また一回当たりの運賃も、日本に比べるとだいぶ安い。モスクワやペテルブルグでバスに乗った場合、20ルーブル前後なので、現在のレートだと日本円で100円にも満たない。これでもだいぶ値上がりしたほうであり、5年前にウラジオストクでバスに乗った際は、わずか5ルーブルだった。
ペテルブルグではソ連崩壊後、毎年のように交通機関の運賃が値上がりしているそうである。たとえば2010年の1月から、地下鉄は20ルーブルから22ルーブルへ、バスとトロリーバスは18ルーブルから19ルーブルへ上がった。先日テレビで、市の担当者が「なぜこうも毎年運賃が値上がりするのか」という質問を受けていたが、担当者は結局のところ「モスクワの指示があるから」というだけで、肝心の点に答えていなかった。もちろん、物価の上昇が背景にあることも確かだが、むしろ最近では新年の値上げが単純に慣例と化しているように思われる。
他にもいろいろと変化がある。ペテルブルグでは、以前は街の中心街でも市電が多く走っていたのだが、現在では少し郊外に行かない限り、目にすることはなくなった。ウラジオストクでも目に見えて市電が減っていったし、モスクワでも中心地では見かけないので、これも全国的な趨勢と言えるかもしれない。また以前は安い代わりに、バスにしろトロリーバスにしろ、オンボロの車両が走っていることが多かったが、最近は電光掲示板付きの綺麗な車両も増えてきた。もちろん、昔ながらのオンボロ車両も走っている。
日本と違って、いずれの乗り物も何時何分に来ると決まっていることはまれで、ロシアでは大体何分ごとに1本と決められているにすぎない(右写真)。したがって、2本立てつづけに来ることもあれば、逆に何十分待っても来ず、待ちぼうけを食らわされることもある。夏はともかく、冬場に外で待つのはきつい。また、料金の支払い方法も都市ごとに違う。モスクワでバスやトロリーバスに乗る場合は、カードのようなチケットを買うが、ペテルブルグの場合は、乗ると係りの人が料金を集めに来る。料金も、モスクワのほうが少し高い。したがって、行ったことのない都市で公共交通を利用しようとすると、戸惑うこともしばしばである。運営しているのは市から委託された業者であり、バスなどに乗ると、しばしば運転手募集の広告を見かける。先日乗ったトロリーバスには、トロリーバスの運転手で月平均2万5千ルーブル、市電で月平均2万3千ルーブルという広告が出ていた。
バスやトロリーバス、マルシュルートカの場合、渋滞に巻きこまれることも多いが、人身事故もしばしば発生している。最近の例だと、2月3日には、ネフスキー大通りでバスが歩道に入って女性2人が死亡するという事故が起きた。また1月27日には、2台のバスが衝突して9人が病院へ運ばれるという事故も起きている。
その点、地下鉄は比較的安全である。スリが多いという問題はあるが、この問題はロシアに限らない。現在ペテルブルグの地下鉄には、5つの路線、63の駅と3万5千台の車両があり、1日につき200万人以上の乗客が利用している。だが残念ながら、観光客にとっても在住者にとっても、使い勝手がいいとは言いがたい。肝心な場所に駅がない場合が多いのである。たとえばエルミタージュ美術館の場合、最寄りの「ネフスキー大通り」駅まで徒歩で20分ほど歩かなければならない。マリインスキー劇場から最寄り駅まで行く場合も、同様である。モスクワの地下鉄が、東京の地下鉄並みに複雑に発達し、郊外にもどんどん伸びているのとは対照的である。
よく知られた話かもしれないが、これにはペテルブルグの土壌が関係している。ペテルブルグは18世紀の初めに湿地帯を埋め立てて造った街であるため、地盤が悪く、あまり多く地下鉄の駅を増やせない。実を言うと筆者自身、ペテルブルグに住みはじめた当初は地下鉄を利用していたが、最近ではバスやマルシュルートカを利用することのほうがずっと多い。複雑な路線図さえ把握してしまえば、これらの乗り物のほうが使い勝手がいいのである。地下鉄ではありえない、激しい渋滞にしばしば巻き込まれるとしてもである。モスクワに住んでいる友人は、ペテルブルグは地下鉄の路線が発達していない分、モスクワよりもマルシュルートカの数が多いと言っていた。
もちろん、行政も手をこまねいているわけではなく、現在、2008年に開業した5番目の路線に4つの駅を建設中である。特に2011年開設予定のアドミレルテイスカヤ駅ができれば、エルミタージュ美術館まで徒歩5分ほどの駅ができることになる。また毎年老朽化した駅の改築も行われている(ただし改築中は、その駅は使用不可となるのだが)。
一見、十年一日のようなロシアの交通機関だが、実はいろいろと変化が起きている。
2010_02_24 O