コラム:ロシア便り: 2009年12月
031:ロシアのお酒事情
日本でロシア人のイメージを聞けば、おそらく「酒飲み」というのが上位に来るのではないだろうか。実際、街を歩いているとあからさまに酔っぱらった男性を見かけることも珍しくないし、今は亡きエリツィン元大統領も、テレビの前で明らかに酒に酔った姿をさらしたことがある。筆者も今まで、飛行機の中と夜行列車の中で無理やりウォッカやコニャックを飲まされて、非常に迷惑したことがある。乗り物の中で酔っぱらっている分にはまだいいが、街中で酔って吐いたりすると、警察に連行されるからである。
ロシア人がイスラム教ではなくキリスト教を受容したのは、イスラム教ではお酒が禁じられているがキリスト教だとお酒が飲めるからという笑い話があるぐらい、ロシア人の酒好きは今に始まったことではない。しかし、日本でも報道されているように、最近ではロシアの代表的なお酒であるウォッカ離れが、ロシアでも徐々に進んでいる。そのことを反映してかどうかは分からないが、筆者の自宅近くにあるスーパーでは、夏ごろから写真にあるようなフルーツワインが売られている。「日本メロン(右写真)」という名前がつけられており、箱の別の側面には「七福神」と書いているが、実際はどのようなものなのか、お酒が飲めない筆者は挑戦していない。なお製造元を見てみると、モスクワになっている。
しばしば指摘されるのは、最近のロシアではウォッカに代わってビールの需要が大きく伸びているということである。キリン食生活文化研究所の調査によれば、2008年のロシアのビール生産量は11,400,000キロリットルであり、中国、アメリカに次いで世界第3位になっている。10年前と比較すると、3.4倍の伸びを示しており、4.7倍のウクライナとともに、急速にビールの市場が拡大していることが窺われる(以上、同研究所のホームページより)。ソ連時代はあまりビールが飲まれなかったことを考えると、大きな変化である。
ロシア製ビールの代表的銘柄は、当サイトの中にもいろいろな情報が載っているバルチカだろう。ペテルブルグを中心に国内に11の工場を持ち、ロシアのビール市場の41%を占め、年間の生産量は5千万ヘクトリットルに上る(バルチカ社のホームページより)。2008年には、日本のアサヒビールがロシアでの販売のために、バルチカとライセンス契約を交わしたことは記憶に新しい。
ウォッカからビールへという嗜好の変化には、ロシア人の健康問題が大きく影響していると考えられている。ロシア人の死因の52%は、アルコールが関係していると言われる。世界的に見れば、アルコールが死因となっているのは4%であるから、ロシアは異常に高いことになる。またロシアでは250万人が重度のアルコール中毒であると認定されているのでおり、2025年までに1100万人がアルコールのために死亡すると予想されている。
もちろん、ここまでくれば大きな社会問題であるので、ロシア政府としても傍観しているわけにはいかない。現在、幼児も含めロシア人1人当たりの年間純アルコール消費量は18リットルであるが、ロシア政府はこれを2020年までに5~8リットルまでに下げる目標を掲げている。だが古今東西、お酒の問題は常に為政者を悩ませてきたのであり、今のロシア政府に何か特別優れた解決策があるわけではない。
先日、ロシア精神健康科学研究所のモスクワ情報科学部長がテレビに出演していたが、その際、アルコール依存症の半数は遺伝性のものであり、依存症を阻止できるかどうかは、賢明な妻を持つことができるかどうかによって、大きく左右されると答えていた。この答えがどの程度正しいかはともかくとして、事実上、政府に取りうる政策はほとんどないと言っているに等しい。この番組は結局、有効な解決策を取りえない政府を追及するアナウンサーと、開き直る科学部長との間で、意見がすれ違ったまま終わってしまったような気がする。
ロシア政府としては、さしあたりの対策として、2010年1月1日からウォッカ0.5リットル当たりの価格を、89ルーブル以上とすることが決まっている。だが税収の増加も見こんだこの政策が、どの程度の効果を発揮するか、未知数である。前述のスーパーを覗いてみると、確かに0.5リットル65ルーブルのウォッカも売られているが、ほとんどのウォッカはすでに89ルーブル以上である。
結局お酒の問題は、ロシア社会の永遠の課題なのかもしれない。
2009_12_28 O