ロシア進出支援とロシア株専門の証券会社、ARUJI GATE証券(アルジゲート証券)

コラム:ロシア便り: 2010年1月

032:ロシアの公文書館と図書館


ロシアと言うと、ソ連時代の延長で、とにかく情報を公開したがらないというイメージが、日本では広がっているのではないだろうか。確かに現代政治において、そうした一面があるのも残念ながら事実だが、実はその一方で、意外と開かれている面もある。それは、手続きさえ踏めば、歴史的な公文書や刊行物を外国人にも公開してくれるという点である。


 ロシアは公文書の保管に熱心であり、帝政ロシア時代からの膨大な文献が、各地の公文書館(アルヒーフ。英語だとア Public Record Office1.JPGーカイヴ)に大切に保管されている。第二次世界大戦の際、人よりも公文書の疎開を優先させたという話も伝わっているぐらいである。もちろん公文書館はロシアだけのシステムだけでなく、ヨーロッパ全土に広がっており、多くの人に利用されている。これに対して日本では国立公文書館がある程度で、公文書の保管は基本的に各省庁や自治体に任されており、保管制度が充実しているとは言いがたい。よく日本人は歴史好きであると言われるが、案外、歴史の基本となる文献の保管については疎かなのである。


ロシアの場合、各地域の主要都市にその地域に関する公文書が設置されているほか、モスクワとペテルブルグには、外交、経済、文学・芸術、陸軍、海軍など、テーマごとに文書が保管されている。もちろん、中には重複している文書もある。


利用の仕方は公文書館ごとに多少異なるが、基本的には大学などの公的機関による紹介状とパスポートを持っていき、アンケート用紙に必要事項を書きこめば、外国人であってもすぐに入れてくれることが多い。ただし見たい文書が見られるのは、早くても翌日、公文書館によっては3日後というのもざらである。また一回に請求できる文書の数も限られている場合が多い。コピー代も高く、写真撮影も不可か、高いお金を取られることになる。開館時間も平日の昼間に限られる。つまり、ここは「お役所」の1つなのである。


このように実際の利用に当たっては不便なことも多いのだが、手順を踏めば国籍に関係なく、歴代のロシアの皇帝や、セルゲイ・ヴィッテのような有名な政治家が実際に手に取ったと思われる貴重な文書に直に触れることができる。それ以外にも、ありとあらゆる公文書が保管されており、まだ誰にも使用されていない史料も多数眠っていると思われる。
それに比べると、図書館のほうは利用がしやすい。公文書館のように紹介状が必要な場合もあるが、中にはパスポートだけで入れてくれるところもある。ロシアの代表的な図書館としては、モスクワにある国立図書館(かつてのレーニン名称図書館)やペテルブルグのナショナル図書館が有名である。もちろん公文書館と同じように、地方ごとにも中心的な図書館が設置されている。これらの図書館では、帝政期から現代にいたる様々な書籍、定期刊行物、公的な統計が保管、公開されている。請求した本もその日のうちに出てくることが多く、コピー代もずっと安い(日本の1枚10円よりは高いが)。開館時間も長い。また近年は各図書館が、蔵書検索の可能なホームページを立ち上げている例も多い。


Presidential library1.JPGさて、昨年秋、エリツィン名称大統領図書館というまったく新しい図書館が、ペテルブルグにオープンした。場所は、ペテルブルグの観光名所の1つ、青銅の騎士象のすぐ横である。帝政ロシア時代、実はこの建物には、元老院という国家の中枢機関が入っていた。それを継承する形で、ソ連時代から2005年までは、帝政期の史料を保管する大きな公文書館があったのだが、プーチン大統領(当時)の命令によって郊外に移転させられ、新たに大統領図書館が同じ建物の中に入ることになった。
この図書館がこれまでのロシアの図書館と違うのは、実物の文献を保管しているのではなく、各地の図書館や公文書館の文書をスキャンして集積し、それをパソコンで見られるようにしている点にある。現在のところ、モスクワの国立図書館の文献が80%近くを占めており、8000点以上の文献を閲覧することができる。また出版時期は、基本的に帝政期のようである。


筆者も実際に足を運んでみたが、閲覧室にはアップルのコンピューターが多数設置されており、かなり鮮明な画像で文献を読むことができる。これまでのロシアの図書館と違って、一回一回カウンターに請求しなくてもすぐに文献を読むことができるのは、大きなメリットである。また建物の内部も大変清潔で最新式の設備がいたるところに取りいれられており、会議室なども充実している。ロシア政府がこの図書館に力を入れていることが窺われる。傷んだ内装が目立つ他のロシアの図書館と比べると、まるで別世界である。一方、入館時の、まるで空港のような身体や手荷物の検査の厳重さや、廊下の一角で流されているエリツィン元大統領のスライドショーなどは、ここがロシアであることを思いおこさせる。


閲覧できる文献の数は日々増えており、今後、この調子で増加して行けば、ロシアの図書館の常識が大きく変わるかもしれない。ロシアの新しい試みとして、今後の大統領図書館の動向に注目したい。

大統領図書館のホームページ(英語):http://www.prlib.ru/en-us/Pages/Default.aspx

2010_01_25 O