ロシア経済トピックス: 2008年9月
EU:「資源ナショナリズム」対抗措置を図るも進展は期待薄
欧州委員会は、「資源ナショナリズム」に対抗する措置を取ろうとしている。資源の輸出に際し、関税、或いはその他の制限を設けているEUの貿易相手国には、こうした動きが台頭している。「資源ナショナリズム」に対抗するEUの方針に関しては、9月29日、ブリュッセルで開催された会合の席で、マンデルソン通商担当委員が表明した。
欧州委員会によると、現在、設けられている資源に対する輸出規制はおよそ450件である。その中には、ロシアがアルミニウム屑に課している50%の輸出関税も含まれている。また、マンデルソン氏は、近年の原料価格上昇の背景には、輸出規制の急激な増加があると指摘した。
特に、中国・インド・ロシア・アルゼンチン等は、アルミニウムから小麦に至るまで、多くの資源に輸出規制を設けており、それによって、国内市場における価格上昇を抑制している。欧州委員会は、こうした輸出規制が招いている資源価格の更なる高騰は、世界経済にとって脅威であると警告した。
主として、EUが懸念しているのは、輸出規制によって、輸入原材料を加工して製品を製造しているヨーロッパ企業の競争力が低下することである。“Tsentr razvitia”基金の専門家であるPukhov氏は、ヨーロッパが、長年、ロシアから割安な資源を取得し、それを元に生産活動を展開してきたことを挙げ、ロシアが、輸出関税を引き上げれば、ヨーロッパ企業の損失は免れないだろうと述べる。
EUは、諸外国との相互貿易協定に資源に関するFTA(自由貿易協定)を盛り込んでいくことで、輸出規制の撤廃を図ろうとしている。また、EUは、反ダンピング税等、貿易保護措置の適用範囲を拡大することも示唆している。EUとWTO(国際貿易機関)への加盟を申請している諸外国との交渉では、輸出規制の撤廃に関する問題が焦点となるだろう。
マンデルソン通商担当委員の発言に基づけば、ロシアが木材及び金属屑に課している輸出関税は、ロシアがEUとのWTO加盟交渉を継続していく中で大きな障害となるだろう。マンデルソン氏は、ロシアが木材に輸出関税を設けていることにより、フィンランドの製紙産業では、1000人規模の雇用が消失していることにも言及した。
しかし、ロシア側の専門家は、WTO加盟のために、ロシアが、譲歩することはないだろうと考えている。“Tsentr razvitia”基金のPukhov氏によると、現在、ロシアは、輸出を制限し、高付加価値製品の製造の場をロシア国内に移し、それによって、原料輸出への依存を低減しようとしている。
政治情勢センターの対外政策担当であるVoyko氏は、事実上、ロシアのWTO加盟という問題が、短期的に解決することはないと指摘する。Shuvalov第1副首相を始めとする政府の代表も、すでに、WTO加盟は難しいと言及している。Voyko氏は、現在、ロシアにとって、EUの意向はそれほど重要ではない一方、EUは、ロシアとの関係悪化を危惧して、厳しい決定を実施できずにいると指摘する。
また、Pukhov氏も、現在の状況を見ると、EUは、ロシアの条件を呑んでいるとしか思えないと述べる。
Pukhov氏は、ロシア側が、実施していた関税引き下げを凍結したことによって、ヨーロッパの取引先は、すでに打撃を受けているが、これによって、双方の合意が破棄されることはないだろうと考えている。同氏は、EU側が、ロシアのWTO加盟に対する承認を見送り、諸企業の損失を招くか、或いは、ロシアとの関係を重視し、同機関への加盟を推進する事によって、諸企業の利益を確保するかを決めなければならないと言う。
EU側の反ダンピング税導入に関して、Voyko氏は、「資源ナショナリズム」に拍車をかけるのみで、ロシアとヨーロッパの関係悪化につながるだろうと考えている。また、Pukhov氏は、ロシア側からダンピングを立証することは難しいと指摘する。両氏は、ロシアに対して反ダンピング税が課されることはなく、恐らくは、交渉という形が取られるだろうとの見解を示している。
しかし、EU側の説得が実を結ぶことはないだろう。現在のところ、ロシアが関税を引き下げたのは原油のみである。10月より、緊急措置として、原油に関される関税は、100ドル/トン以上引き下げられ、372ドル/トンとなる。しかし、この措置は、原油価格の下落に伴い、国内石油企業の負担を軽くする目的で実施されたものである。
FINAM
ロシア経済:今後の見通し
9月25日、国際通貨基金(IMF)ロシア事務所のPaul Tomsen代表は、「経済の世界的低迷、及び、ロシア国内市場の下落によって、GDP成長率は、若干、減速するだろう。」と述べた。6月初旬、IMFは、2008年のGDP成長率を7.75%と予測していたが、現在、同予測値は、7.1%まで引き下げられた。また、IMFは、2009年のGDP成長率を6-6.5%と見込んでいる。IMFによる新たな見通しは、過日、見直しが図られたロシア政府による経済予測と合致している。
しかし、IMFは、悪いことばかりではないとしている。政府が、効果的かつ時宜に叶った対策を取ることができれば、経済成長の急激な鈍化を回避することは可能である。また、経済の加熱が抑制されれば、ロシアにとって有利ともなり得る。IMFは、ロシア政府の有価証券市場への介入を防ぎ、銀行の流動性を維持するよう提言している。IMFの意向が、経済安定化に向けたロシア政府の方針と同じであることは注目すべきである。
数ヶ月前、IMFの専門家は、ロシア政府に対して、銀行システムのリスクを最小限に抑制することを進言していた。しかし、現在、IMFは、以前指摘したような銀行システムのリスクが継続して存在するとは認識していない。Paul Tomsen代表は、「中央銀行は、銀行数行に認められた流動性の問題を解決するために、最適な措置を取った。流動性の問題が、その他の銀行で発生する可能性は否定できないが、銀行システム全体のリスクは解消されたと考える。」と言及している。また、Paul Tomsen代表は、「銀行業界にとって厳しい時期であった2004年以来、危機への対応が大きく改善された。現在のシステムは最適だと言える。また、預金保険制度の構築により、特定の銀行が破綻した場合の悪影響も、免れることができるだろう。」と述べる。
一方、アルファ・バンクのアナリストは、IMFと見解を異にしている。同アナリストによると、最新の統計データは、経済の深刻な冷え込みを示している。アルファ・バンクでは、「2008年上半期、建設業界の成長率は22%であったが、8月には18%に減速している。それに伴い、8月の投資増加率は13.4%に縮小した(2008年上半期は16.9%)。また、加工業界にも悪影響が波及し、8月の成長率はわずか5.3%に止まった。」と指摘している。アルファ・バンクのアナリストは、金融市場の低迷によって、第4四半期にも、GDP成長率は5%まで低下するだろうと予測している。
アルファ・バンクのアナリストは、預金準備率が引き下げられ、財務省が8000億ルーブルを拠出したにもかかわらず、金融危機は、まだ、完結したわけではなく、10-11月には、銀行の流動性が悪化するだろうと考えている。同アナリストは、「付加価値税の分割払いを決定したことで、1兆8000億ルーブルの付加価値税支払いが10月末に迫っていたことに関連する緊張感は、一部払拭されるだろう。しかし、それだけでは足りない。」と指摘する。アルファ・バンクのアナリストは、不安定な市場環境の下で、銀行が、自己流動性を維持する必要が出てくることを考慮にいれ、2008年における貸付の予測増加率を下方修正し、40%とした(前年は48%)。また、2009年における貸付の増加率に関しては、20%以下との見通しが出されている。
Moody’sの専門家も、銀行業界の先行きを不安視している。Moody’sは、これまでも、ロシアの銀行の資金調達能力低下を懸念する見解を示しており、かねてから、ロシアの銀行12行(Uralsib、Tsentr‐Investa、Trastaを含む)に対する銀行預金長期格付の見通しを「ポジティブ」から「安定的」に見直していた。また、Moody’sは、ロシアの銀行7行に対する財務格付、及び、銀行6行が発行する債券格付も、同様に見直した。さらに、最新の報告書「Banking System Outlook for Russia」の中では、金融危機下で、ロシアの脆弱な銀行システムが露呈されるだろうとの見解が示され、ロシアの銀行システムに対するMoody’sの貸付格付の見通しは「ネガティブ」に引き下げられた。
銀行業界の低迷は、企業の成長にも悪影響を及ぼす。専門家は、特に、建設業界の先行きを懸念している。一方、アルファ・バンクは、「諸外国と異なり、ロシア経済は、金融市場に対する依存度が低い。また、企業の対外債務も、GDPのわずか27%に過ぎない。これは、他の発展途上国と比較すると、かなり低い数値である。」と指摘する。また、アルファ・バンクのアナリストは、投資の伸び率には、政府が大きく関与しているため、投資がまったく途切れてしまうことはないだろうとしつつ、銀行業界に対する公的資金の投入によって、インフレが加速することは避けられないと予測している。その上で、同アナリストは、「2008年のインフレ予測を13% から15%に引き上げる。また、2009年のインフレ予測についても、10.5%から14%に引き上げる。経済の減速は、公的資金による介入と相まって、インフレを加速させるだろう。」と結論している。
FINAM
2008_09_29 L
三菱電機ヨーロッパ株式会社モスクワ駐在員事務所長へのインタビュー
3年前にロシアに進出していた日本企業はわずか50社に過ぎなかったが、今日ではすでに200社近くになっている。金融危機が世界的に激化している中でも、日本のビジネスマンを引きつけているロシア市場の魅力について、三菱電機ヨーロッパ株式会社モスクワ駐在員事務所長が、RBC Daily紙ウラジーミル・パブロフ記者のインタビューに答えた。
RBC -世界的な金融危機はまず米国と欧州市場を直撃しましたが、新興国市場は比較的安定していました。これにより、三菱電機ヨーロッパ株式会社が事業の軸を新興国に移していくことはあるのでしょうか。
三菱 -多くの日本企業に影響を与える米国・欧州市場の状況は確かによくありません。そのため、日本やアジア諸国のメーカーが、重点を新興国市場に転換しなければならなくなる可能性はあります。例えば、我々はBRICs諸国の持つ可能性に非常な関心を抱いています。我々は、以前より、中国で事業を展開してきました。今後は、新たな地域における事業拡大にも焦点をあてていきたいと考えています。その中で注目しているのはロシアとインドです。MEのロシア及びインドにおける事務所にはすでに新たな人員が配置され、日本からマネージャーも赴任しています。
RBC -例えば中国と比べて、ロシア市場にはどんな利点があるとお考えですか。
三菱 -中国の問題は、今日、中国が「世界の工場」となっており、米国及び欧州市場下落の影響を受けないわけにはいかなくなっていることにあります。その他、上海や北京で見られるように、人件費が急騰しています。MEの社員によると、中国では人件費が年率15%水準で上昇しているようです。遅かれ早かれ、中国市場で事業を行う企業は、人件費を節約することができなくなるでしょう。一方、中国と異なり、ロシアは、世界の生産を請け負うような立場にはありません。また、ロシア経済は天然資源の高値に支えられているため、世界経済の下落から大きな影響を受けることがありません。
RBC - ロシアに供給される製品とインドや中国に供給される製品に違いはありますか。
三菱 -はい、若干の違いはありますが、大きな違いはありません。MEはロシアに生産拠点がありませんから、製品はMEのドイツ支店やオランダ支店からロシアの販売業者に納入されます。ロシアに輸出されるのは、主に、空調施設、プロジェクター、スタジオ・公共用大型スクリーン、安全装置、自動生産設備、半導体などです。
RBC -御社はロシアにおける事業展開を積極的に拡大しているようですが。
三菱 -我々のモスクワ事務所は1997年に開設されました。また、昨年にはエカチェリンブルグ、そして、今年はサンクトペテルブルグにも事務所を開設しました。次の事務所はおそらくロシア南部とウラル山脈以東に開設されるでしょう。ロシア経済の成長動向次第では、将来的に、ロストフ・ナ・ダヌーとノボシビルスクにも三菱エレクトリック・ヨーロッパの事務所を開設する可能性を検討しています。
RBC -南コーカサスにおける戦争を引き金として先鋭化したロシアと西側諸国との政治的軋轢が御社の事業計画に悪影響を与えることはないのでしょうか。
三菱 -グルジア問題に関しては全く相反する解釈が流布しています。西側のマスコミはグルジア寄りの立場をとることがままあります。彼らの報道によれば、グルジアは大国ロシアに反抗する小国です。このような報道のせいで、ロシアに対するマイナスイメージが形成され、外国人投資家はロシアの資産に投下した資金の引き上げについて考えざるを得なくなっています。しかし、繰り返しますが、私から見れば、ロシア経済は安定的でしっかりしていますから、私は、日本の同僚に、パニックに陥らず、冷静に事の成り行きを見守るように言っています。私は、ロシアを恐れる必要はまったくないと確信しています。我々は、ロシア市場にとどまり、路線を変えることなく自分たちの戦略を実現し続けなければなりません。
RBC
金融危機:2008年の外国直接投資は減少か?
サブプライム問題に端を発する金融危機の影響が鮮明になったのは、2007年下半期であった。しかし、国連貿易開発会議(UNCTAD)が発表した「世界投資報告」によると、2007年における世界全体の外国直接投資(FDI)は、前年比30%増の1兆8330億ドルとなった。これは、2000年の1兆4000億ドルを大幅に上回る過去最高の記録である。
アメリカは、引き続き、世界最大の外国直接投資受入国となった(2328億ドル)。アメリカに次いで、外国直接投資の流入額が大きいのは、イギリス・フランス・カナダ・オランダ等の先進国である。
また、UNCTADのデータによると、発展途上国、並びに、経済が過渡期にある国の中で、2007年にもっともFDIの誘引効果がみられたのは、中国・香港・ロシアであった。特に、2007年、ロシア経済におけるFDIは62%増の520億ドルとなった。しかし、不可解なことに、ロシア連邦国家統計局の評価は、UNCTADのデータより控えめである。ロシア連邦国家統計局は、2007年における外国直接投資の流入額を278億ドルとしている(2006年は137億ドル)。
サンクト・ペテルブルグ銀行の債権アナリストであるLapshina氏は、「2007年に、世界全体で、FDIが伸びたのは、まだ、比較的、資本市場が安定していたためである。金融危機の影響も限定的であった。また、FDIを実施した企業が、金融危機の深刻さに気づいていなかったということもあるだろう。」と指摘する。
Renaissance Capitalの主任エコノミストであるSharipova氏も、同様の見解を示している。同氏は、「2007年のFDIが活発化した背景には、将来、生産活動がさらなる発展を遂げるだろうという人々の期待があった。しかし、そうした期待を抱いていた人々は、恐らく、生産活動の成長率を過大評価し、金融システムが安定性を欠いた際に生じるリスクを過小評価していたと言えるだろう。」と述べる。
また、UNCTADのアナリストは、2007年のFDIが過去最高となった要因として、国際的なM&Aを基盤とした企業の統合が進行過程にあることを挙げている。UNCTADの試算によると、2007年、国際的M&Aの取引総額は、過去最高であった2000年の記録を21%上回る1兆6370億であった。しかし、2008年に入り、世界経済の低迷、並びに、諸先進国の金融市場における流動性危機が鮮明化したことで、国際的M&Aの件数は減少している。2008年上半期における国際的M&Aの取引額は、2007年下半期の水準を29%下回る結果となった。また、UNCTADの報告書には、企業の収益やシンジケートローンの額も縮小しているとの記述もある。
UNCTADは、上記のような悪材料があることから、2008年における世界全体のFDIは、2007年の規模を10%下回る1兆6000億ドル程度に減少するだろうと予測している。
Renaissance CapitalのSharipova氏も、FDIが減少することに同意している。同氏は、「金融市場の回復に時間がかかれば、企業の資金調達に影響が出ることは明らかである。銀行が貸付を行わなければ、企業には、生産活動の拡大に投下するための自己資金がなくなってしまう。」と指摘する。さらに、同氏は、今年でなければ、来年にも、そうした事態に陥る可能性があると言及している。
一方、UNCTADは、発展途上国におけるFDIが大幅に縮小することはないだろうとの見解を示している。また、ロシア・カザフスタン・ウクライナ等におけるFDI流入額は、縮小どころか、増加することが見込まれている。
しかし、ロシア国内のアナリストは、FDIの流入額について、明確な予測を立てられないでいる。サンクト・ペテルブルグ銀行のLapshina氏は、「ロシア国家統計局によると、2008年上半期、すでに、FDIの流入額は、2007年の水準に対して70%程度(110億ドル)に減少している。」と述べる。
ロシア市場は、他の発展途上国と同様、成長過程にある。Lapshina氏は、先進諸国の市場低迷は、途上国に対する投資を誘引するものと考えている。しかし、世界的に金融市場の安定性が揺らいでいるために、ポートフォリオ投資のリスクは増していることも考慮に入れなければならない。Lapshina氏は、「こうした要素を勘案すると、資本市場が厳しい情勢にあるために、ロシアのFDI流入額は減少するだろう。しかし、先進諸国の経済が低迷している中では、当然、発展途上国の市場に向けた投資は魅力的である。」と述べる。
また、ロシアに対する投資は、政治的・マクロ経済的安定性によっても左右されるだろう。Renaissance CapitalのSharipova氏は、「ロシア市場の安定性を投資家に認識させることができれば、天然資源を有するロシアは、投資家を引きつけられるだろう。天然資源は、投資対象として、今後も、注目を集めるだろう。」と述べている。
FINAM
BRICs需要の拡大:世界経済後退に対する抑止力となるか?
ゴールドマン・サックスのエコノミストであるジム・オニール氏は、BRICs諸国における消費者需要の増大によって、米消費者市場の下落は補填される可能性があるとの見解を示している。同氏は、新興国市場を牽引しているBRICs諸国の需要拡大は著しく、アメリカの国内需要低下を補うに十分であるとしている。現在、消費支出がアメリカのGDPに占める割合は70%超である。しかし、今後、その割合は60%程度まで縮小すると見込まれている。そうなった場合、アメリカの消費支出が世界全体のGDPに占める割合は、現在の21%から18%まで低下する。ジム・オニール氏は、この縮小分が、BRICs需要によって賄われると考えている。つまり、今後の見通しとして、世界経済の成長率が、年間3.5%の水準で維持されることも考えられる。
経済発展が著しいブラジル・ロシア・インド・中国の4カ国の総称であるBRICs諸国という概念は、数年前に、ジム・オニール氏が提唱したものである。ゴールドマン・サックスのレポートでは、今後10年程度で、BRICs諸国は、目覚ましい経済成長を遂げ、アメリカ・ドイツ・フランス・イギリス・イタリア・日本等の先進国を追い抜くだろうと予測されている。
統計資料によると、現在においても、BRICs諸国が創出している世界需要は大きい。ゴールドマン・サックスの評価によると、BRICs諸国の需要は、この10年で、アメリカの需要に匹敵するほど膨らんだ。中でも、中国の成長は著しい。8月、インフレを考慮に入れた中国の小売売上高は、15.9%に上昇した。
また、第2四半期、ブラジル経済も、予測を上回る6.1%の経済成長率を示した。ゴールドマン・サックスのアナリストは、将来、世界全体の需要に占めるBRICs諸国の割合は、先進7カ国の値に近づいていくだろうと予測している。
投資銀行TRUSTのアナリストであるBragin氏は、「こうした予測がなされるのも、もっともではある。BRICs諸国の経済は、最早、10年前とは比較にならない。しかし、この経済成長が、輸出に多くを依存していることも事実である。従って、ゴールドマン・サックスの見通しは、懐疑的である」。と述べる。
Bragin氏は、BRICs諸国における経済発展の構造は単純であると指摘する。つまり、輸出増加によって、国内に資金が流れ、国内需要が高まり、その結果として消費が伸びている。同氏は、「輸出の低下によって、BRICs諸国の国内市場は縮小するだろう。従って、BRICs諸国がアメリカの経済減速を埋め合わせることができるとは考えられない。BRICs諸国においては、今回の経済危機による影響が若干軽いという可能性はある。しかし、その確証はない。」と考えている。
マクロ経済分析センターの主任エコノミストであるPolyakov氏は、「BRICs諸国における経済成長の原動力は、個人消費の伸びである。ロシアも例外ではない。」と指摘する。しかし、高品質商品は、依然として、先進国の人口(約10億人)によって消費されている。従って、Polyakov氏は、「中国・ロシア・インド・ブラジルが、世界的な個人消費需要の拡大に寄与するまでには至らないだろう。」と考えている。
FINAM
2008_09_25 N
金融危機の打開策が始動:副作用は?
米財務省は、金融システムの回復を図る目的で、金融機関の不良資産買取を予定している。買取規模は、最大で7000億ドルとなる。一方、ロシア政府も、流動性を向上させるために、国内の商業銀行に多額の予算金を預けることを決定した。アメリカにしても、ロシアにしても、最優先課題は、当然ながら、金融システムの安定を図ることである。しかし、多くのアナリストは、大規模な公的資金の注入によって、少なからず副作用がもたらされるだろうと予測している。
第1に挙げられるのは、インフレの加速である。すでに、クドリン財務相は、2008年におけるロシアのインフレ率は、以前政府が予測していた水準(11.8%)を1‐2%上回る可能性があると言及している。
投資会社トロイカ・ダイアローグのインフレ予測値は、それよりも若干高い。トロイカ・ダイアローグのアナリストは、2008年のインフレ率を14%程度と予測している。同社の以前の予測値は13.5%であった。従って、修正幅は、それほど大きくはない。
トロイカ・ダイアローグのアナリストであるStruchenevsky氏は、米金融システムに向けた大規模な公的資金注入が世界の基軸通貨及びドルレートに及ぼす影響として、1月半にわたって続いていたドル高傾向は止まるだろうと考えている。同氏は、「米経済には、巨額の赤字という根本的な問題がある。従って、長期的には、ドル安につながるだろう。」と述べる。
一方、米国には、米政府が取った措置がもたらす影響をより悲観的に捉えているアナリストもいる。ブルームバーグの報道によると、バークレイズの為替戦略担当部部長のDavid Vu氏は、巨額の財政赤字がドルに悪影響を及ぼすことで、金融危機からの脱却という短期的な肯定的要素は無に帰してしまうだろうとの見解を示している。
米財務省が、金融機関の不良債権を買取る計画を発表したことを受け、主要通貨に対するドルレートは下落している。9月22日、ユーロ対ドルは、1.46を上回った。これは、今月最大のユーロ高である。ドル対円は106.69となった(先週末は107.45)。また、ドル対ルーブルは2週間ぶりのドル安水準となり、25.2107を付けた。
ロシア中央銀行は、現在のところ、通貨バスケットに対するルーブルの安定性を維持している。Kapital Investment GroupのアナリストであるKharchenko氏は、「ルーブルは、ユーロドルレートに連動していく。従って、短期的にルーブル高となる可能性は十分にあり得る。」と考えている。しかし、同氏は、中期的観点からすると、米政府の対応策によって、米金融市場の緊張感が、部分的に払拭されることが予想されるため、ユーロ高傾向が持続しないことも考えられるとしている。
一方、トロイカ・ダイアローグのStruchenevsky氏は、現在のような状況で、通貨バスケットに対するルーブルの安定性維持を図ることは、正しい措置ではないのではないかと疑問視している。同氏は、「現在、ロシアは、資金調達が可能なほぼ唯一の国である。ルーブルが通貨バスケットに対して安定していれば、国内における借入を促進するだろう。その結果として、借り入れられた資金が国外資産の購入に振り向けられ、資本の流出を招く恐れがある。」と指摘する。
Struchenevsky氏は、中央銀行が、通貨バスケットに対するルーブルレートの変動幅を拡大することも、資本流出を防ぐ1つの方法であるとしている。同氏は、「ルーブルレートの変動幅を広げれば、債務者は、新たな為替リスクを考慮に入れる必要が出てくる。」と述べる。
ロシア政府は、金融危機を打開するために、特別対策を講じているが、一方で、それは、インフレの加速、及び、為替リスクの増大、資本の流出を招くだろう。しかし、複数の災いが避けられない場合、選択すべきは影響の小さい方であることは言うまでもない。
FINAM
2009_09_24 N
米政府による金融危機対策:効果の程は?
ポールソン米財務長官及びバーナンキFRB議長は、政府と協調して、金融市場救済計画を策定する意向を示している。近日中に、計画の内容は明らかにされるだろう。
米財務省のマクラフリン報道官の発表によると、米政府は、金融危機の蔓延を断つために、銀行から下落した住宅ローン債券を買取る権限を取得する方針である。これによって、先例のない大規模な公的資金が注入されることとなる。
ポールソン財務長官は、アメリカ経済を危機に陥れている不良債権の買取は、政府の特別機関が実施するだろうと言及した。専門家の試算によると、シティ、JPモルガン、バンクオブアメリカ、ゴールドマンサックス、メリルリンチ、リーマンブラザーズ等の米国主要金融機関が、数ヶ月前に抱えていた不良債権の総額は、5000億ドル相当に上っている。現時点で不良債権の規模がどれくらいになっているかという質問に対しては、まだ、回答がない。Kapital Investment GroupのアナリストであるNaumov氏は、「不良債権の買取は、すなわち、損失を国家が肩代わりするということである。短期的には、不良債権の市場流通は阻止されるだろう。しかし、長期的な観点からすると、米政府にとっては大きな重荷であることから、将来、国民負担は重くなるだろう。」と指摘する。
Naumov氏は、将来、このような資産のファンダメンタルズが回復した場合、国家による売却が実施される可能性もあると考えている。しかし、現在の状況は、非常に緊迫している。同氏は、「歴史と権威のある金融機関でさえ、リスクに晒されている。従って、破綻の憂き目を避けるために、今回、政府は、不良債権の買取という措置を取る必要に迫られている。」と指摘する。
一方、金融市場で資金を運用している投資ファンドに対して、政府が保険制度を創設することも審議されている。米政府によると、こうした措置は、投資家が、ファンドから資金を引き出すことを未然に防止する役割を果たす。その規模は、3兆ドル以上と推定されている。また、米証券取引委員会は、一時的に、金融株の短期売買を禁止した。証券取引委員会の発表によると、この短期売買禁止措置は、10月2日まで実施され、必要性があれば、その後も継続されるとのこと。
アメリカ政府は、数ヶ月にわたり、金融危機の対応策に追われている。しかし、専門家は、構造的な対策が欠けていることから、政府による対応は不十分だとしているが、米政府が策定している新たな救済計画は、有効に作用する可能性もある。一方、米政府の救済案発表に、市場は好反応を示している。政治経済コミュニケーション社のOrlov社長は、「米政府は、保守的な対策に終始してきたが、今や、柔軟な対策に取り組んでいる。これは、ポジティブな要素として、非常に前向きに捉えられている。」と指摘する。
Orlov氏は、米政府が、より早期に、抜本的な介入に踏み切ることもできただろうと考えている。そうしていれば、金融市場の世界的危機は回避できたかもしれない。また、現在、米政府が、金融機関の住宅ローン債券を買い取る権利を取得しようとしていることに関して、Orlov氏は、金融機関の資金流動性を向上させるだろうと評価している。その上で、同氏は、「救済計画によって、ある程度、ポジティブな潮流が生まれることは間違いないだろう。しかし、それが、根本的な対策となるかどうかが問題である。」と指摘する。
FINAM
2008_09_24 L
付加価値税の引き下げは延期
9月18日、クレムリンで行われた税制会議において、財務省を始めとする関係機関は、付加価値税の引き下げを来年まで延期することを決定した。クドリン財務大臣は、今回、間を置いたことについて、「世界市場の動向、及び、石油価格の推移を慎重に見極める必要がある。」と述べた。
投資銀行TRUSTの主任エコノミストであるNadorshin氏は、2008年の予算に組み込むには、どちらにせよ、遅かっただろうと考えている。同氏は、「付加価値税の引き下げは、2009年からの導入が決定されたわけではない。決定の延期によって、何かが変化することは基本的にない。」と言及する。
また、Economic expert groupの専門家であるSuslina氏も、付加価値税の引き下げ延期を妥当であると考えている。同氏は、「現時点で、歳入の縮小につながるような対策を実施するのは、近視眼的措置である。」との見解を示している。また、同氏は、今回、付加価値税の引き下げに関する協議が延期された背景には、財務省の働きかけがあったものと考えている。財務省は、付加価値税の引き下げが、ネガティブな影響を及ぼす可能性があることを強調したのだろう。
全事業者に対する税制緩和とはならなかったが、政府は、厳しい金融情勢を受け、特定企業の経営を他の対策でもっていくらか安定させたいとする意向を示している。特に、設備投資額の最大30%までが追加的に控除対象となることによって、課税対象である企業収益が減り、増収につながる見通しである。
運用会社Russ-Capitalの主任アナリストであるLogvin氏は、「減価償却制度の見直しによって、まず、石油関連企業の大規模な投資計画は有利になる。石油関連企業は、こうした形での税制緩和に期待している。」と指摘する。
また、政府は、子会社が支払う配当税の簡素化を決定した。さらに、2009年には、ボーナス時における付加価値税、及び、前年の未払い税金を対象とした税制の簡素化の導入が予定されている。
さらに、流動性向上に向けては、税金を滞納している大企業に対して、税金の支払期限を延長する措置が取られる見通しである。延長枠に関しては、個別に、財務大臣が決定する。こうした対策は、2009年にも導入される見込みである。
財務省を始めとする関係機関は、証券市場に対する国民の関心を増す目的で、有価証券を1年以上保有する場合に限り、株式譲渡益に対する税金を非課税とすることも予定している。しかし、こうした措置が有効となる時期については明らかにされていない。投資銀行TRUSTのNadorshin氏は、「従って、この決定は、現段階では特に何の意味も持っていない。こうした対策によって、将来、市場参加者の活発な取引が促進されるだろう。」と指摘する。
この他、クドリン財務大臣は、近日中に、石油採掘を後押しする目的で、石油関連企業に対する税金負担を追加的に引き下げる決定が採択される見通しであると公表した。
Economic expert groupのSuslina氏は、石油関連企業に対する税制緩和の背景には、石油価格の下落が関係していると指摘する。同氏は、「こうした措置は、石油関連企業のみならず、他業種の発展にも寄与するだろう。石油業界は、ロシア経済の中核を成しているため、副次的な資産に対する投資も見込まれる。」と言及する。同氏の意見に従えば、石油関連企業に対する税制緩和は妥当であると言えるだろう。
石油関連企業に対する税負担軽減措置は、すでに、採択されているものもある。鉱物資源採掘税の非課税枠は拡大され(9ドル/バレルから15ドル/バレルに拡大)、石油輸出に対する関税も、10月から、100ドル/トン以上引き下げられ、372ドル/トンとなる。Suslina氏は、「こうした措置は、一方で、石油価格の下落に悪影響を受けている石油業界自体の支援を目的としている。また、もう一方では、証券市場における現状を踏まえ、石油関連企業が自社株対策を図ることができるようにすることが目的となっている。」としている。
Suslina氏は、現在、政府が決定した措置は、証券市場及び金融構造全体の成長を支援するものであると評価している。運用会社Russ-CapitalのLogvin氏も、同様の評価をしている。同氏は、「付加価値税の引き下げも経済をバックアップする上で、ひとつの選択肢であった。一方、上場企業を支援するということも選択肢としてあった。今回、政府が選んだのは、市場の救済であった。」と指摘する。
Logvin氏は、今回、政府が石油部門に特別な配慮を示した理由として、同部門の経済全体に占める割合が最も高いことを挙げている。同氏は、「今後も、ロシア経済の中核を成すのは、石油関連企業である。」としている。
その上で、Suslina氏は、今回の政府による対策が、ロシアの資源偏重をさらに深刻化させることはないと考えている。同氏は、金融危機を脱すれば、ロシア経済は、戦略に従って、資源立国からイノベーション立国へと方向転換していくだろうと確信している。
FINAM
2008_09_22 N
ロシア市場:今後の対応策は?
現在の状況は、個人投資家にとって、非常に悩ましい事態となっている。ロシア市場における指数の大幅下落を受けて、9月17日の取引は一時停止となった。5月以来の下げ幅は、すでに50%以上に達した。そろそろ反発しても良さそうなものである。投資信託から資金を引き揚げずに、将来のリターンを期待して割安なロシア株を買い増しする好機ではないでしょうか?
また、銀行預金をどうすべきかということに関しても不透明な情勢である。銀行預金では利子が付くものの、安定性を欠いている諸金融機関に対する警戒感から、投資家は、安閑としていられない。また、この一ヶ月間、ルーブルが対ドルで下げていることも、問題を引き起こしている。果たして、外貨に換えた方が良いだろうか?ドル建ての貸付はどうしたらよいだろうか?
多くのアナリストは、難しい状況に直面している個人投資家に対して、パニックに陥ることなく、落ち着いて理性的であるように呼びかけている。VTB Asset Managementのマクロ経済分析部部長であるVorobev氏は、「98年当時と比較するならば、今回の金融危機は事情が異なっている。まず、この10年間の著しい経済発展によって、現在は、金融システムを長期にわたって支えるに十分な多額の準備金が蓄積されている。」と指摘する。また、同氏は、今回の金融危機が、98年に発生した金融危機ほど長くは続かないとの見解を示している。
従って、状況は、当初、懸念されたほど悪いわけではない。その上で、Vorobev氏は、現在、比較的リスクが高いのは株式市場であり、リスクが低いのは国債であるとしている。
少なくとも、多くの投資会社では、投資家に対して、市場は由々しい状況にあるが、50%の損失が発生する現段階で株式の売却に動くべきではないと呼びかけている。Renessans Asset ManagementのアセットマネージャーであるBorisov氏は、「当然、判断は、金融情勢、或いは、投資家のリスクに対する意識次第で変わってくる。しかし、個人投資家が、リスクを覚悟した上、貯金の一部を株式投資に回しているといった通常の場合、現段階で損失を確定することは、まったく意味のないことである。一方で、相場が以前の水準まで回復するには、数年かかる可能性も否定できない。」と指摘する。しかし、同氏は、現在の水準からすると、19日中にも、市場が15%程度反発する可能性はあるとの見解を示している。
MDM-Bankの企業投資部の代表であるBabayan氏も、投資家に対して、現段階で、売却を考えるべきではないと注意を喚起している。同氏は、市場がさらに下落する可能性はあるが、そうだとしても、下げ幅は小さいだろうと予測している。さらに、同氏は、国営企業株(ガスプロム・ロスネフチ)、及び、銀行株(ズベルバンク・VTB)の購入を勧めている。Babayan氏は、「間もなく、市場は底を打つだろう。従って、投資家には、今後3-6ヶ月、非常に大きな収益を得られるチャンスがやってくる。」と述べる。
投資会社Ingosstrakh Investitsiiの個人投資家部門部長であるMusienko氏は、投資信託の買い増し、或いは、ポートフォリオの平均化、将来性のある株式取得に動くべき時は今だと考えている。同氏は、「今後15年は、現在のような株価水準に直面することはないだろう。従って、今は買い時である。」と述べる。さらに、同氏は、その際、3-5年という単位の長期的な投資をする必要があるとしている。
また、Musienko氏は、投資するにあたって、全ての資産を一つの対象に投入してはならないということを再確認することが必要だと指摘する。同氏は、「資産の50%程度を有価証券投資に、30%程度をより保守的な投資に、20%をオルタナティブ投資に振り分けることが望ましい。」としている。資産運用会社Maxwell capital groupのアセットマネージャーであるPrishenova氏は、「投資家が、大幅下落した株式に投下できる資金は、収入の10%である。」と考えている。
しかし、Unicredit AtonのストラテジストであるBushueva氏は、投資家に対して、今、株式の取得に急ぐべきではないと呼びかけている。同氏は、「もう少し、待った方が良いだろう。流動性の危機は、今後数ヶ月継続する恐れがある。従って、さらなる下落に見舞われる可能性もある。事実、下落する可能性は否定できないし、少なくとも、しばらくの間、上昇することはないだろう。反発後は、必ず利益を確保したいという投資家が増え、売りが殺到するだろう。」としている。
一方、銀行預金に関して、Unicredit AtonのBushueva氏は、銀行預金を解約して、資金を引き出す必要はないと考えている。中小銀行の預金はリスクが高いが、ロシアには、預金保険制度がある。この制度により、40万ルーブルまでであれば、中小銀行を含む銀行の預金は保護される。Bushueva氏は、「仮に、市場の低迷が3-6ヶ月以上続く場合で、中小銀行に預けている資金が、40万ルーブルを超える際には、その銀行の安定性を確かめる必要があるだろう。」としている。
この他、VTB Asset ManagementのVorobev氏は、金融危機が局地的ではなく、全世界的な性格を帯びていることから、ロシア人投資家に対して、多額のドル建て資産を購入する必要はないと注意を促している。同氏は、個人投資家に対して、各通貨を利用して、資産の多角化を図るように勧めている。同氏は、「その意味では、一部の資産をドル建てにすることも良いだろう。しかし、現在は、10年前のように、ルーブルに対する信用が揺らいでいるわけではない。資産の多角化を図ることが目的である。比率をどうするかと問われれば、7対3でルーブルを多く所有していた方が良いと答えたい。」と述べる。
また、ドル高の進行により、多くの債務者は、ドル建てで融資を受けている場合、どうするべきかという問題に直面している。これに対して、Vorobev氏は、受けた融資の通貨と同様に、収入をどの通貨で得ているかが問題であると指摘する。同氏は、仮に、融資がドル建てで、収入がルーブル建ての場合には、そうした融資は期限前に返済した方が良いと勧めている。また、同氏は、どちらもルーブル建てであれば、安心して、融資の条件が一方的に激化されないように見守るべきだとしている。
どのような場合でも、必ず活路はあるものだ。イギリスの政治家、ウィンストン・チャーチルは、次のような言葉を残した。「危機とは、新たなチャンスである。」
FINAM
2009_09_19 N
金融危機:ロシア経済の転機となるか?
世界金融危機はロシアにも本格的な影響を及ぼしてきた。危機感は高まるばかりである。9月16日、オーバーナイト金利は15%に達した。中小銀行は、資金調達ができず、資産の売却を迫られた。また、多くの銀行が、レポ取引で債務不履行に陥った。ロシア証券市場は大幅下落し、連邦金融市場局は、RTS市場及びMICEX市場における取引を一時停止とする措置を取った。
しかし、パニックに陥る必要はない。
ロシアの金融監督機関は、すでに、緊急の対策を講じている。財務省は、銀行に一時的に預ける政府予算金の枠を拡大した。また、中央銀行は、レポ取引に向けた資金供給量の増加を図り、9月18日から、銀行の預金準備率を引き下げる。
Sobinbankの市場分析部部長であるRazuvaev氏は、ロシアの金融監督機関が、銀行システムの非常事態を容認することはないだろうと確信している。しかし、同氏は、流動性悪化の影響を受けたロシア金融機関が無傷で済むとは考えていない。ロシア企業は、合併・買収という道のみならず、破綻に追い込まれる可能性もある。一方、非効率的な企業の淘汰という意味で、こうした企業の経営破綻をポジティブに捉えている専門家もいる。
会計コンサルティング会社FinExpertizaの貸付機関担当部部長のBorzova氏も、現状を楽観視している。同氏は、金融監督機関の取組は適切であると評価しており、「2007年10月にも、厳しい状況に追い込まれたが、政府は的確な対応策を打ち出した。」と言及している。
さらに、今回の金融危機が、結果的には、ロシア経済に多くの好材料をもたらすだろうとの見解を示すアナリストもいる。マクロ経済分析センターの専門家であるBelousov氏は、金融危機の影響として、ロシア国内の競争力は著しく高まるだろうと考えている。同氏は、「今回の金融危機は、市場崩壊というより、市場強化という方向に働くだろう。」と述べる。
投資銀行TRUSTのアナリストであるBragin氏も、借り手に対する条件が厳しくなることによって、競争力は強化されるだろうと考えている。同氏は、「より収益性の高い商品・プロジェクトに資金を投資し、債権者に対し、より具体的な情報を公開することが重要になってくる。」と説明する。
マクロ経済分析センターのBelousov氏は、「金融危機の結果、成長力のある企業がそれに応じた経営及び市場参加方法を獲得することができれば、経済効果は向上するだろう。そうなれば、ロシア経済は、今後、世界的に需要が高まる時期に、国内・国外市場で今よりもはるかにダイナミックな業績を上げることができるだろう。」と予測する。
従って、金融危機は、新たな変革を促すきっかけとも捉えられる。金融危機の時に、構造的・質的変化が起こり、そうした変化が、後に、成長の原動力となることは周知の事実である。UniCredit AtonのエコノミストであるOsakovsky氏は、「今回の危機後の状況は、98年と同様なものとなるだろう。石油業界・金融業界は健全化が図られ、歪みも拭い去られるだろう。ロシア経済も、よりバランスの取れた成長が可能となるだろう。」と言及する。
投資銀行TRUSTのアナリストであるBragin氏は、ロシア経済の冷却化が始まるのは、貸付の伸びが縮小し、消費・投資・輸入の成長が減速した後のことであると指摘する。また、同氏は、実質賃金の上昇率にブレーキがかかれば、労働生産性との格差を低減することにもつながるだろうと言及する。
また、UniCredit AtonのOsakovsky氏は、今後、予測される原油価格の低下及びルーブル安は、国内産業発展の要因になると考えている。同氏は、「98年当時と比較して、ロシアの経済および金融業界は、格段に進歩している。従って、ポジティブな作用もはるかに大きいだろう。」としている。期待される好影響の一例として、Osakovsky氏は、特に、不動産価格の下落を挙げている。不動産価格は、中産階級にとっても手が届きやすくなるだろう。
投資会社Finam Managementの主任エコノミストであるOsin氏は、今回の金融危機が、ロシア経済の構造改革を導くだろうと考えている。
しかし、投資銀行TRUSTのアナリストであるBragin氏は、ロシア経済における資源依存を変革するには、経済及び国家予算のシステムを転換し、原油価格の動向が経済に及ぼす影響を低減する必要があると指摘する。そのためには、石油マネーの無力化が必要であり、準備金・国民福祉基金に入れる等の措置が望まれる。しかし、現在、当面の需要を満たす目的での石油マネー利用に関して協議が活発化している。Bragin氏は、政府が、政治的目的から、石油マネーの利用に踏み切る可能性があることを危惧している。
FINAM
リーマン・ブラザーズ破綻の影響は?
9月15日付

世界的金融危機は、次第に緊迫の度を増してきた。アメリカ第4位の投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻を発表した。
バークレイズ及びバンク・オブ・アメリカの両行が買収交渉から撤退した結果、リーマン・ブラザーズは法的整理に追い込まれた(第3四半期におけるリーマン・ブラザーズの損失額は39億ドルに上り、同社株価は1年間で94%下落した)。一方、バンク・オブ・アメリカは、メリルリンチを買収することで合意したと発表した。買収総額は500億ドルとなる。以前、メリルリンチの時価総額は倍以上であった。Sobinbankの市場分析部部長であるRazuvaev氏は、アメリカ政府がリーマン・ブラザーズに対する公的支援を拒否したことは正しい選択だったと考えている。同氏は「市場競争の下では、成功する企業もあれば、淘汰される企業もあって当然だ。」と述べる。その上で、同氏は、アメリカが、銀行システム及びドル通貨、米国債に対する国際的信頼を維持することはできるかどうかは、不透明であるとしている。Sobinbankでは、2009年末までに、深刻な金融危機が発生する可能性は高いと予測している。
トロイカ・ダイアローグのアナリストであるGavrilenkov氏も、世界的金融市場の現状は、極めて不安定であるとの認識を示している。同氏は、リーマン・ブラザーズの破綻が、米大手保険会社AIGを始めとする他社にどれほどの影響を及ぼすかによって、今後の情勢も変わるだろうとしている。先週、AIG株は46%下落した。
AIGの経営陣は、資金の調達に苦しんでいる。望みの綱は、政府準備金から400億ドル相当のつなぎ融資を受けることだが、FRBは、救済に動くのは、経営破綻が急迫した場合に限るとしている。
世界の大手銀行は、国際市場の流動性を維持することを目的に、公的支援を待たず、700億ドル規模の特別安定化ファンドを創設した。ファンドを創設した10行の中には、バンク・オブ・アメリカ、バークレイズ、シティグループ、JPモルガン、メリルリンチ、モルガン・スタンレーが入っている。
一連の世界的金融危機は、ロシアにどの程度影響するだろうか?また、どのような対策が有効だろうか?
クドリン財務大臣も述べているように、リーマン・ブラザーズの破綻は、ロシア市場にもある程度の影響を及ぼすだろう。しかし、政府は、現在、流動性を維持するために十分な量の資金を保有している。クドリン財務大臣によると、商業銀行に拠出可能な政府の資金枠は、6680億ルーブルから1兆2320億ルーブルに増加している。
モスクワ銀行の分析部部長であるTremasov氏は、パニックに陥るような危機ではないと考えている。同氏は、「何か新たな脅威が発生することは、基本的にないだろう。ロシアの銀行は、一月前と同様に、機能するだろう。先進国の市場から資金を調達することは、猶、難しい状況にあるが、資金の調達方法を広げることで、資金調達はできるだろう。」と述べる。Tremanov氏は、銀行の貸付ポートフォリオ拡大は減速し、リスクマネジメントに対しては、より厳格になるだろうと考えている。
また、Tremanov氏は、今年、国内銀行の業績が惨憺たる結果になることはないだろうとしている。同氏は、「証券市場での取引を盛んに行い、リスクの高い株式・債券に手を出していた銀行の財務指標は収縮するだろうが、大手には、そうした銀行は少ない。」と結論している。
一方、世界金融危機がロシア証券市場に及ぼす影響に関して、Sobinbankのアナリストは、こうした国外からの下落圧力による「売り」が落ち着いた後、RTS指数は1100-1300ポイントで推移するだろうと予測している。
トロイカ・ダイアローグのGavrilenkov氏は、ロシア株が危機的な下落の様相を呈するとは考えていない。同氏は、「ロシアを注視してきた人々が、今回、市場から資金を回収することはないだろう。震源地であるアメリカよりも、ロシア市場の方が、安定していることは明白である。」と評価している。また、Gavrilenkov氏は、貿易黒字及びアメリカの銀行システムに対する信頼後退を背景としたドル安がロシア経済を支える材料となるだろうと考えている。
モスクワ銀行のTremasov氏は、ロシア市場にとっての主要リスクは、100ドル/バレル以下の水準で推移している原油価格の動向であるとしている。同氏は、「現在の価格帯は、すでに、危機的水準である。」と指摘する。実際、9月15日の取引では、スルグトネフチェガス、ロスネフチ、タトネフチ、ルクオイルといった石油関連企業の株価が大幅下落している。また、VTB(外貿銀行)、ズベルバンクといった銀行株も下落している。
FINAM
「戦争を煽ったのは誰か。新冷戦の到来か?」
プーチン首相は、グルジアの南オセチア侵攻に関して、ソチでヴァルダイ会議の参加者と会談した。会議の参加者は、世界的に最も影響力のあるロシア専門家たちである。
プーチン首相が指摘したとおり、ロシアは8月初頭にコーカサスで起きたことを見過ごすことはできなかった。
ヴァルダイ会議に参加した政治学者と会見するために、プーチン首相が現れたのは、ビジネスランチの最中であった。プーチン首相は、最初に、それぞれ見解や観点が異なることを前置きした上で、全ての質問に率直に答えると約束した。
首相は「みなさんは、まだ最後まで召し上がっていないようですね。残念ですが、これ以上、召し上がってはいだだけないでしょう。」と述べた。
ヴァルダイ会議が発足して5年の月日がたった。参加者は世界的な大学の教授の他、アメリカやカナダ、インド、日本など世界中の有力政治紙の編集者である。参加者が首相に対して婉曲的な質問をする一方、首相の答弁は非常に率直である。「ヴァルダイ会議」との名前がついたのは、2004年、ヴァルダイで、こうした会議が最初に開催されたためである。当然のことながら、今回、質問の多くは南オセチアをめぐる問題に関してであった。
イギリスの国際情報紙The Gardianの国際情報部のJonathan Steele特派員:「首相は西側の報道陣が伝えたことを腹立たしく見ていたことだろう。あなたは、戦争を始めたのはグルジア側だとの声明をすぐに発表した。しかし、その後、ロシア軍はグルジア領にまで移動し始め、ロシア空軍はゴリを空爆した。こうした行動は、南オセチア保護というよりは、報復行為と映った。なぜ、ロシア軍がこのような振る舞いをしたのか、お答えいただきたい。」
プーチン首相:「ご質問には驚かないが、別のことに驚いている。西側のプロパガンダ宣伝機がいかに強力かがわかった。実に驚くべきことである。こういうものをロシア語では『できが悪くて、お話にならない』という。なぜならば私は、ここに、すなわちこのホールに現実を知らない人がいないとは絶対に信じないからだ。他はいざ知らず、少なくともこのホールには、だ。
みなさんは実際にはどのように事が展開したかをよく理解しているし、知っている。事が始まったのは8月7日の午後で、ロシア軍がツヒンバリに接近したのは9日から10日にかけての未明である。そして、ご存知のように、私は北京にいて、インターネットでニュースをみていたが、何も報道されていなかった。まるで何事も起こっていなかったかのように。みなさんにおめでとうと言いたい。報道に携わっているみなさんに。全くよくやったものだ。しかし、その結果はほめられたものではない。また、こうしたことが、うまくいくはずがない。なぜなら、今回の報道は、真実からかけ離れた異常なものだからだ。長い目で見れば、こうしたやり方がうまくいった試しはない。」
実際、プーチン首相によると、南オセチアに対するグルジア侵攻は、ずっと以前から準備されていることだった。ロシアに帝国的な野心が残っていると伝える西側のマスコミ報道を口実にし、グルジア軍は軍備を増強していた。
プーチン首相:「我々のパートナーであるアメリカは、常々グルジア軍の訓練を行っていた。決して小額とは言えない金額を同国に投下し、グルジア軍を臨戦態勢下に置くべく、大量の教官を送り込んでいた。私には、アメリカが、民族間の対立と民族間の紛争を解決しようとする代わりに、この紛争における当事者の一方、すなわちグルジア側に侵攻をたきつけたように見える。これが事の顛末だ。もちろん、我々は応戦しなければならなかった。他に手立てがあっただろうか?それとも、この場合にも、我々は鼻血をたらしたまま頭を下げておけばよかったのだろうか?みなさんはようやく保たれているロシア北コーカサス地方の均衡状態を崩したいのか?」
プーチン首相によると、近年、ロシアの北コーカサス情勢は外部要因によってぐらついている。それには、しばしば、ロシア国内で活動しているNGOが手を貸している場合がある。
プーチン首相:「我々は北コーカサスの複数の共和国において、南オセチアがロシアによって保護されていないことを口実に、ロシアからの独立を求めるNGO設立まで発見してきた。今回、我々は、南オセチアを保護した。しかし、保護したことを非難されている。しかし、仮に、保護していなかったとしたら、ロシア北コーカサスの情勢不安という2つ目の脅威が出来上がっていたことだろう。厚顔無恥とはこのことだ。今回、なぜ我々はこのような行動を起こしたのか。なぜ他のやり方ではなかったのか。それは、ロシアの平和維持軍が駐留していたツヒンバリ及び南オセチアの侵攻に使われたグルジア軍のインフラ、つまり、司令塔や無線電波機と武器庫等が、ツヒンバリ自体を大きく外れていたためである。そんな状況で我々は小さなペンナイフで応戦すべきだったというのか。後に、私は、武力行使は適切ではなかったという意見も耳にしたが。しかし、適切な武力行使とは一体何なのか?我々に対して戦車や射撃システムや重火器を使用してくる相手にパチンコでやり返せと?この場合適切な武力行使とは一体何をさしているのか。当然、挑発してきた側は、お返しが来ることを予想すべきだった。司令部がもし紛争地域の外にあるのならば、そこを攻撃すべきだ。兵法もそのように言っている。第2次世界大戦がどのように開始されたか思い出してみてほしい。9月1日にドイツ軍がポーランドを侵攻した。そしてその後がソ連だ。そのときソ連の国境まで行って、そこで止まっていればよかったのか?ちなみに、ベルリンに侵攻したのはソ連軍だけではなかった。そこにはアメリカ軍、フランス軍、イギリス軍もいた。それぞれの国境で停止していたとしたら、そこで何が起こっただろうか?狙撃されて終わりだ。でも実際には止まらなかったではないか!侵略者は罰せられるべきだ!」
プーチン首相によれば、ロシアには旧ソ連の共和国の主権を侵す意図は全くなかった。アメリカとその欧州の同盟国は第一に自分たちの地政学的利益のために、時に、国際法を無視し、自分たちの都合のいいように使ったりしている。コソボの独立承認や、アフガニスタン侵攻、あるいはイラク戦争開戦時がその好例である。
プーチン首相:「今回も、軍事力が使われた。銃撃・爆撃が行われたのは、それが成功すると思われたからだろう。アフガニスタンでも、イラクでも、中東でも、どこでも成功しなかったのに、どうして、今回、成功すると思ったのか?そして、当然のように、ここでも失敗した。現代世界において、武力行使が外交政策として最も効率のよいやり方だと思っている者は、将来も、痛い目に会うだろう。ゆえに、ロシアのメドベージェフ大統領は、新たな合意を提案していた。新たな合意とは、原則は一つでなければならないということである。そのためにも、どのようなルールで行くかで合意する必要がある。」
その後、会議参加者の話し合いは歴史的観点に移った。ケント大学のRichard Sakva学部長は1829年にペルシャと合意に至ったグリボエドフについてや、帝政ロシア時代まで溯ったイギリスとの複雑な関係について話し始めた。
英国ケント大学のSakva政治・国際関係学部長:「200年にわたって、ロシアは西側と安定的で確固とした関係を築くことができなかった。なぜそれが不可能だったのだろう?」
プーチン首相:「あなたは私に、なぜロシアが西側と安定的な関係を築けなかったかと質問していらっしゃる。では、なぜ西側がロシアと安定的な関係を築けなかったのかを逆にお聞きしたい。
安定的な関係を築くには、双方の歩み寄りが必要でる。対等な関係ということは、相互に尊重することである。尊重していれば対等なパートナーとなることができる。ヨーロッパには、アメリカの考えに追従する面が、見受けられる。非難したくはないが、西側には独自の対外路線というものが欠けている。このような状態では、ロシアがヨーロッパと安定した関係を築くことはできないし、そのつもりもない。
では、我々のパートナーであるアメリカのやり口を見てみよう。もし南北アメリカ大陸でなんらかの対立が起きたとしたら、それこそ大変なことになるだろう。アメリカは、アメリカ大陸を自分たちの聖地だと考えている。一方、アメリカは、ここから200キロメートルしか離れていない黒海に、ミサイル装備を積んだ船を派遣してきた。これは普通ですか?こうしたやり方が対等だと言えるだろうか。
ロシアには、みなさんが非難しようとしているような、いかなる帝国的野心もないし、今後も、そうした野心を持つことはない。」
ヴァルダイ会議では、アブハジアと南オセチアの大統領も発言を行った。アブハジアのセルゲイ・バガプシュ大統領は、アブハジアが独立国家として発展していくとの見解を示しながらも、ロシアとは極めて緊密な関係を構築してくだろうと強調した。さらに、バガプシュ大統領は、アブハジア共和国はCISに加盟し、ロシアベラルーシ連邦国家への加盟申請を行うとした。それまでに、アブハジアはまずはロシアと協力関係に関する合意書を締結する。
バガブシュ・アブハジア大統領:「必要な書類に署名した後、これは複雑で急進展は望めない問題であるが、我々は連邦国家加盟のための申請書を提出する。もしこれがCIS拡大となるならば、CISにも加盟する用意がある。集団安全保障条約にもだ。これが我々の路線であり、原則である。しかし、これを決めるのは、本日ここにいるものたちである。そして我々はこれに賛成する。」
南オセチアの対外政策については、ココイトゥイ大統領が語った。プーチン首相は、ロシアが南オセチアを承認したあとココイトゥイ大統領と初の二者会談を行った。
ロシア証券市場:回復への道筋は?
ロシア証券市場は、続落している。9月10日、MICEX指数は3.75%安、RTS指数は4.36%安となった。前日9日ほどの大幅下落ではないものの、今春末から夏にかけて、ロシア市場の指数がおよそ30%下落し、9月初頭からもさらに10%以上下げていることを考えると、事態は深刻である。9月10日には、メドベージェフ大統領が、ロシア証券市場には成長能力があると言明したが、それでも、ネガティブトレンドを打開するところまでは至っていない。ロシア市場の成長能力が如何なく発揮されるためには、何が必要なのだろうか。
現在、ロシア市場が下落している要因は、外国人投資家のロシア離れである。Tsentr Razvitiyaの主任エコノミストであるMironov氏は、RTS指数が2487ポイントを付け、ロシア市場がピークにあった5月の時点では、市場参加者の約50%が外国人投資家であったと述べる。従って、全ての外国人投資家が、ロシア市場から遠ざかるとすれば、RTS指数は、最大で1250-1200ポイントにまで落ち込む可能性がある。底を打たない限り、市場の上昇は望めないかもしれない。
Mironov氏は、世界の商品市場における環境の変化が、さらなるロシア株下落を招き、ロシアRTS指数が1250ポイント以下まで下落する可能性もあるとしている。原油価格は、147バレル/ドルの最高値を付けた6月と比較すると、30%以上下落している。石油ガス関連株が、業種別で、もっとも下げ幅を広げたのも頷ける。
投資会社Finam Managementの主任エコノミストであるOsin氏は、資源株こそ、ロシア証券市場のよりどころであると考えている。同氏は、「今年半ばに原油価格が下落するまでは、世界の証券市場の中でも、ロシア市場は、ひときわ好調に推移していた。」と述べる。
過日、OPECは、下落傾向にある国際原油価格を維持することを目的に、日間およそ52万バレルの原油減産を決定した。しかし、多くのアナリストは、このニュースによって、原油価格が、目立って上昇するとは考えていない。
しかし、Mironov氏は、原油価格の下落が、これ以上、加速することもないだろうと予測している。同氏は、「原油価格が安定すれば、若干鈍化しているものの、経済成長は、猶、堅調に推移しており、ロシアをめぐる地政学的状況も沈静化すれば、大幅に割安となったロシア株は魅力を増すだろう。」と予測する。
地政学的条件は、決定的とまではいかなくとも、非常に重要な要素である。UniCredit AtonのエコノミストであるOsakovsky氏は、ロシア市場の下落が収まる上で、政治的リスクの低減は必要不可欠であると考えている。同氏は、「グルジアとの紛争に関する交渉の場で、何らかの解決策を見出すことが必要だ。ヨーロッパ・アメリカを含む各国にとって、納得のいく平和的善後策に取り組まなければならないが、当然、実現は困難だろう。」と指摘する。
一方、国際格付機関のStandard & Poor'sは、ロシアの格付を据え置きにし、見通しを「ポジティブ」とした。従って、カフカースにおける紛争とそれに伴う資本流出がロシアのマクロ経済に及ぼした影響は限定的であったとSobinbankの市場分析部部長であるRazuvaev氏は考える。
しかし、ロシアマクロ経済は安定性に欠けているという、クドリン財務大臣の指摘には賛成せざるを得ない。ロシア経済が多くの問題を抱えていることは周知の事実である。高いインフレ率、及び、GDP成長率の減速以外に、クドリン財務大臣は、国家予算の赤字転落を懸念している。
また、ヨーロッパやアメリカにおけるマクロ経済の不調、並びに、リーマン・ブラザーズ等の大手金融会社の業績悪化等、国外のネガティブ要因も状況を悪化させている。
メドベージェフ大統領の発言を引用すると、国際市場の下落を招いた発端は、アメリカの金融危機にある。メドベージェフ大統領は、連邦金融市場局のMilovidov長官と会見した折、「ロシアが、アメリカ市場の状況を変えることはできない以上、サブプライム問題に関しては、アメリカが何とかするしかない。しかし、今回、アメリカがほとんど全ての国々を危険にさらしている」と発言した。
また、メドベージェフ大統領は、ロシア企業には成長能力があると強調した。さらに、大統領は、ロシア政府としても、企業の成長能力が発揮され、ロシア市場の指数が年初の水準まで回復するよう、支援していくことを明言した。
Milovidov連邦金融市場局長官は、証券市場の立て直しを図る長期的対策として、有価証券発行規模の変更、行政手続き等の簡素化、並びに、機関投資家を中心とする新企業による投資環境の整備を挙げた。しかし、こうした措置が抜本的なものであるとは言い難い。
UniCredit AtonのエコノミストであるOsakovsky氏は、現在、ロシア証券市場再生のために、何らかの対応策を取ることは、非常に難しいと考えている。同氏は、「すでに、政治家や監督機関の行動による損害が発生している。何も対策を取らなければ、市場は下落し続け、原油価格の後を追う格好となるだろう。」と述べる。
しかし、中には、楽観的な観測を示すアナリストもいる。SobinbankのRazuvaev氏は、第4四半期には、市場の動向は上向きになるだろうと考えている。同氏は、「アメリカの金融システムが回復基調に乗り、政治軍事的リスクが低減すれば、RTS指数は、2000-2300ポイントの水準まで、急速に回復する可能性はある。」と予測している。
FINAM
グルジア問題:ヨーロッパ及びアメリカの狙いは?
ロシアは、EUが、グルジア側に更なる武力行使の意図はないと保障したことを受け、アブハジア・南オセチアに隣接するグルジア領土内に駐留していた平和維持部隊を撤退する意向を示した。また、グルジア・オセチア紛争の舞台となった地域には、EU側から200人規模の監視団が派遣される予定である。9月8日、メドベージェフ大統領は、EU議長国のサルコジ仏大統領とクレムリンで会談し、上記のような結論に至った。
予測されたとおり、今回の会談では、一番の懸案事項に関しては、合意に至らなかった。その問題とは、ロシアが、アブハジアと南オセチアの独立を承認したことである。今回、サルコジ大統領は、グルジアのサアカシビリ大統領が、紛争地域における武力行使の意図はないことを確約する内容の書簡をメドベージェフ大統領に手渡した。しかし、ロシア側は、今後の成り行き次第で方向性が変わることもあり得るとして、危機感を緩めてはいない。会談の後、メドベージェフ大統領は、「グルジア側は、軍事力を再構築しようとしており、アメリカを始めとする数カ国は、グルジアに対して、積極的な軍事支援を展開している。」と言及した。
しかし、こうした動向が、ロシアを脅かすようなことはない。まして、メドベージェフ大統領は、アブハジア・南オセチアの独立承認に関するプロセスは「進行」したと述べている。大統領の「進行」とは、メドベージェフ-サルコジの6項目和平原則に基づき、10月15日にジュネーブで開催される国際協議のことである。メドベージェフ大統領は、「協議の準備は、9月中に開始される。独立承認に向けたプロセスは進行している。その協議がどのように展開するか、どの段階でEU諸国が合流するかは、EU諸国の体制次第である。」との見解を示した。
また、メドベージェフ大統領は、アブハジア・南オセチアに対する見方が変わったことは、是認すべき新たな事実であると強調。一方で、EU諸国には両共和国の承認問題において進展があるかという質問に対して、サルコジ仏大統領は、「グルジアの国境線がどうあるべきか決定することは、ロシアにはできない。ジュネーブの会議で審議すべきことは多いだろう」と述べた。
メドベージェフ大統領とサルコジ大統領の2度目の会談は、現在のところ、ロシア側の明らかな優勢で終了したと言えるだろう。国家戦略研究所の所長であるRemizov氏は、「前回の会談では、南オセチア・アブハジア領内における軍隊の撤退も要求された。しかし、今回の会談で、ロシア側が、確約したのは、グルジア領内における緩衝地帯に駐留している軍隊の撤退のみである。」と指摘する。
Remizov氏は、紛争地域に駐留している平和維持部隊の撤退を重要視している。同氏は、「1992年のDagomys協定及び1994年にモスクワで交わされた停戦合意内容は、有名無実となってしまった。」と結論する。現在、平和維持部隊の交代に関する新たな提示は出されておらず、紛争地域に入るヨーロッパの代表団は、監視団としての地位しかない。また、Remizov氏は、「仮に、新たな平和維持部隊が創設されていれば、ロシアは紛争の当事国としての地位を甘受しなければならなかっただろう。また、そうした平和維持部隊が紛争地域に関与することは、ロシアの主権が制限されることを意味する。」と指摘する。
今回、ヨーロッパは、紛争地域における更なる武力行使はないとの保証を請け負った格好になっている。しかし、国家戦略研究所のRemizov所長は、ヨーロッパ側の言質を真に受けることはできないと考えている。ヨーロッパ側のこうした対応は、政治的かけひきに過ぎないと言えるだろう。同氏は、「バルカン半島における紛争の際、平和維持部隊がどのような働きをしたかを考えれば、実際のところ、保障などはないに等しいことが明白である。従って、問題となるのは、グルジア側が、軍事行動を起こした場合、ヨーロッパが責任を負うことはできるのかということである。唯一、そうした事態に対応できるのは、南オセチアに常駐する形で配備されるロシアの部隊のみである。」と考えている。
グルジア問題に関して、盛んに、意見交換を行っているヨーロッパとは異なり、アメリカは、具体的な行動に出る用意があると牽制し続けている。9月8日、ブッシュ米大統領は、原子力の平和利用を目的とした米露原子力協定の凍結を決定した。
米露原子力協定をどうするかということに関する審議は、数ヶ月以上にわたって行われてきた。同協定は、2008年5月、米議会の承認手続きに入っていたが、8月に、オセチアで紛争が発生したことを受け、アメリカ側は、民間分野におけるロシアとの原子力協力を凍結する可能性があると公表していた。しかし、ロシアの専門家は、アメリカのこうした発表を言葉の綾だと捉えていた。エネルギー戦略研究所の世界エネルギー部部長であるPervukhin氏は、8月末時点で、「協定の破棄通告には長期を要するため、協定の凍結は、単なる協議で終わるだろう。また、原子力分野における協力は、両国にとって必要不可欠である。アメリカのエネルギー関連企業が、割安なロシアの核燃料を利用してきたことを考えると、アメリカにとっての重要性も決して低くはない。」と予測していた。
ロシア外務省も、民間分野の原子力協力に対するアメリカの関心の高さに言及し、アメリカが両国の関係発展を望んでいないことを惜しんでいる。
実際、協定の破棄が最終的なものだと考えるのは、時期尚早だろう。同協定が議会から差し戻された背景には、恐らく、政治的問題が山積みの緊迫した状況で、この協定に手をつけることは控えたいとの思惑があったものと考えられる。米大統領選の後には、同協定に関する承認手続きは続行されるだろう。Shuvalov第1副首相も、原子力の平和利用に関する協力が、引き続き、行われることを確信している。同氏は、現在開催中のバイカル経済フォーラムの中で、「大国であるロシアとアメリカが、原子力分野で提携することは、非常に重要なことである。」と言及した。
どちらにしても、アメリカとヨーロッパが、今回の紛争に関しては、共通の目的を持ちつつも、まったく異なるやり方で、変わり映えのしない対応策を打ち出していることは明白である。協議を重ねてきたヨーロッパ側は、善意を前面に出し、一方、アメリカは敵意を顕わにしている。
国家戦略研究所のRemizov所長は、ヨーロッパの方が、今回の駆け引きでは、広い手の内を生かせると考えている。
アメリカの息がかかったサアカシビリ大統領が窮地に陥れば、アメリカの沽券にかかわる。従って、アメリカは、そうした事態を避けたい。Remizov氏は、「アメリカは、グルジアの利益に反することはできない。」と指摘する。一方、ヨーロッパは、グルジアに対して、いかなる倫理的義務もない。
また、アメリカは、事実上、今回の紛争に加担していたと言える。アメリカの指導者は、グルジア軍の組織に携わっていたばかりか、今回の紛争におけるグルジアの軍事行動に同調してきた。紛争を焦点とした情報に関しては、言わずもがなである。従って、Remizov氏は、アメリカが、ヨーロッパと同様に、中立の立場を取る調停国という役割を担うことは不可能であると考えている。
また、グルジア・オセチア地域における和平が、ヨーロッパにとっては死活問題であることを忘れてはならない。Remizov氏は、「アメリカにしてみれば、どちらに転んでも、損をすることはない。サアカシビリ大統領率いるグルジアが勝てば、それも良し。負けたとしても、EUとロシアの関係は損なわれ、ロシアは、国際政治的に孤立の度を増す。一方、ヨーロッパ側にしてみれば、こうしたリスクは、受け入れがたい。であるからこそ、ヨーロッパは、アメリカよりも、中立的な調停者として、グルジア問題の解決に動いているのだろう。」と結論している。
FINAM
国民福祉ファンド:2009年より投資事業に着手
国民福祉ファンドは、証券市場へ進出する。同ファンドが保有する資金は、80%を上限に、株式・債券に投資される。主に、海外企業の有価証券が中心となるが、ロシア株・債券も投資対象となるだろう。
国民福祉ファンドは、2009年より、中央銀行の支配を外れる。同ファンドが保有する資産は、その50%が株式に、30%が外国企業の社債に投資される。これは、9月8日、財務次官のPankin氏が発表したものである。また、さらに資産の5%が、直接投資に振り分けられる可能性もある。その他、ポートフォリオには、デリバティブも含まれる。
財務省は、10月1日までに、国民福祉ファンドの新たな投資戦略の概要を政府に提出する。Pankin財務次官によると、資産の大部分が、10-15年単位で投資される模様。
Pankin財務次官は、同ファンドの資産が、中央ヨーロッパ及び東ヨーロッパ、BRICs諸国における格付の高い企業が発行している株式・債券に投資される可能性もあるとしている。また、同氏は、付加価値税の規模等、歳入構造に変化がなければ、こうした財政戦略は実現されるだろうと言及した。しかし、歳入構造に変化が生じた場合、5-7年後には、同ファンドから、歳入を補填する必要に迫られるだろう。
メリル・リンチの経済学者であるTseplyaeva氏は、グルジアとの紛争・原油価格の下落を背景とした資本流出によって、国民福祉ファンドの投資計画に関する今回の決定は、国内市場の利益になるものと受け止められていると考えている。同氏は、「この先、同ファンドから、どれほどの資金がロシア市場に振り向けられるか明らかになるだろう。」と述べる。民間の年金ファンド「Sberegatelniy Fond RESO」のCEOであるNevrov氏は、資本の国外流出が、経済情勢の悪化等の市場要因ではなく、政治的ファクターによって引き起こされたものである以上、それに対抗するには、政府による市場介入という政治的措置を取ることが必要であると考えている。また、アルファ・バンクのアナリストであるDepoy氏は、40億ドル程度の資金があれば、RTS市場の安定化は図ることが可能であり、政府は、市場へ介入するという選択肢があることを示唆していると考えている。同氏は、1997年に、香港市場の指数が10.4%下落した際、中国の国家ファンドが、市場に介入したことを引き合いに出した。
財務省は、2023年までの金融戦略の中で、国民福祉ファンドにより多くの資金を回すことを目的に、準備金の割合をGDPの10%から6%に引き下げることを計画している。財務省の評価によると、2008年8月時点で、国民福祉ファンドは、320億ドルの資金を保有しているが、2008年末には、1000億ドルに増大する見込みである。
MDM-Bankの代表であるVyugin氏は、新たな投資戦略を非常にアグレッシブと捉えている。しかし、長期的な投資を行うにあたって、有効な方法である。アメリカでも、年金を受け取るまでに後30年間が残っている方々に、同様な年金運用戦略が勧められている。
Pankin財務次官は、ロシア市場への投資も行っているノルウェーのファンドを例に挙げ、15年を節目として、国民福祉ファンドの資金の運用方法をよりハイリスクなものに切り換えることも視野に入れているとしている。発展途上国の市場は、安定性に欠けてはいるが、市場の下落を乗り切ることができれば、株価上昇の際、利益を得ることができる。
メリル・リンチの経済学者であるTseplyaeva氏は、国民福祉ファンドのポートフォリオの中に、信頼性の低い株式・債券が採用される恐れはないだろうと考えている。ロシアの年金資金運用基準は非常に厳しい。例として、民間の年金ファンドに対しては、年金貯蓄(義務化された年金の場合)ポートフォリオ内の株式保有比率、並びに、社債の保有比率は、それぞれ最大40%と定められている。また、年金準備金(自由年金の場合)ポートフォリオ内の株式保有比率は最大70%、債権の保有比率も最大70%と定められている。また、その株式・債券は信頼性の高いものでなければならない。民間の年金ファンドは、海外投資は、ほぼ実施していない。現在、許可されている海外投資は、インデックスフォンドとEBRDの債権のみである。
Bright Minds Capitalの運用部長であるRodionov氏は、国民福祉ファンドの収益によるインフレ率への影響、並びに、その投資先をめぐる汚職の発生を危惧している(特定の企業に対する支援ともなりかねない)。従って、同氏は、先進国の市場を対象とした投資の方が、そうした危険性は少ないと考えている。
ロシア株式市場に対する戦略を見直し
投資銀行UBSは、報告書の中で、ロシア証券市場における戦略の見直しを図った。
以前、UBSのアナリストは、ロシア株式市場の指数に影響を及ぼす懸念材料として、企業経営の質低下、並びに、政治的リスクの増大を挙げていた。しかし、昨今、上記のようなニュースは、ポジティブな性格を帯びてきたことから、同行のアナリストは、戦略の転換を決定した。
UBSのアナリストは、投資家が、原料需要の伸び悩み観測を背景とした発展途上国における市場の成長減速、及び、それに伴う原料価格の下落傾向を不安視したことが、今回の株価下落要因であると考えている。
専門家は、未だ、発展途上国市場の成長減速による原料価格下落に関する懸念は、解消されたわけではなく、ロシア株に対するネガティブな見方がどのように変化するかは予測し難い状況にあるとしている。こうしたことから、アナリストは、従来どおり、ロシア株式市場に対する短期的見通しに関しては、中立と評価した。
原料価格の下落観測があることから、当然、ロシア国内事業に特化している企業の株式保有割合を高めることが必要となってくるだろう。UBSの専門家も、上記のような対策を否定してはいない。しかし、同行アナリストは、国内事業に特化した企業の株式は、原料輸出企業の株式よりも高く評価されており、投資家に注意を促している。
UBSの報告書では、現在、小売業界に属する企業の株価収益率(PER)の平均値は、従来どおり、およそ20である。しかし、名目GDPの伸び率が減速すれば、国内市場における需要の低下が懸念されるため、今後、起こり得る原料価格下落が、小売業界にネガティブな影響を及ぼさないと保障することはできない。また、専門家は、ルーブル安によって、ドル換算の諸指標は向上するだろうと指摘している。
一方、石油業界は、すでに、大きく下落している。現在、石油株は、平均して、PER4.5で取引されている。
原油価格は下落しているが、石油業界のPERは上がっている。原油価格の下落に関するネガティブな観測及び見通しは、すでに、主要財務指標に反映されているが、収益の指標は、原油価格の下落によって課税額が縮小したため、少なくとも、ある程度は維持されている。
また、ルーブル安は、石油業界にとっても、収益が伸びるため、有利となるだろう。石油業界の配当利回りは、ロシア市場で取引されている主要部門の中でも、もっとも高い部類に入る。
アナリストは、原油価格の下落が、政府にとっては、税制を改正する一つのシグナルとなるだろうと考えている。税制の改正により、政府は、消費活動に影響することなく、経済に資金を投入し、投資を推進することができるだろう。
鉄鋼株は、メチェルをめぐる調査の後、価格政策に関する懸念によって、大きく値を崩した。未だ、不確定要素は残っているものの(価格形成に関する調査は続行中)、UBSのアナリストによると、メチェル株の配当利回りは、年率で12%程度であり、こうした調査が、収益予測の際にリスクとなることはないだろう。
UBSの専門家は、国内事業に特化している企業として、通信業界を推奨している。
また、報告書の中では、固定通信事業体の株式も、収益性が向上する素地があることから、推奨銘柄としている。小売業界とは異なり、通信業界は、経済成長率に影響を受けにくい。通信事業体の売上は、サービスの内容によって決まってくる。例として、ブロードバンドインターネット接続事業は、需要があったためというよりも、事業者側からサービスを提案することによって、成り立ってきた。
ロシアの銀行業界に対するUBSのアナリストの評価は、一様ではない。評価にあたっては、成長可能性を考慮に入れていない。国営銀行に関しては、国家からの融資がなくなることは考えられないため、資産は増大していくだろう。
しかし、資産内容に関しては、懸念される点もある。アナリストは、資産内容に関する問題点が表面化するにつれ、貸付額の増加率は伸び悩むだろうと指摘している。また、VTB(外貿銀行)を始めとする諸銀行は、商取引(貿易)に対する依存度が高い。従って、商取引(貿易)による損失を背景に、全体としての利益は減少する恐れがある。
世界的に、今後の銀行業界における動向は、不透明なままである。損失計上の時期は収束に向かっているものの、市場では資金不足の状況が続いており、債務の返却には相当の時間を要するものと考えられる。
報告書では、ロシアの対外経済指標、及び、予算指標は、依然、好調とされている。
ロシア中央銀行は、多額の資金を蓄えている。一方、企業及び個人による融資の利用は低い水準にある。従って、原料価格が下落したとしても、ロシアマクロ経済のポジティブな傾向が変化することは、中期的にないだろう。
また、経済成長率は減速するにせよ、今後数年間における経済成長率が5%を切るようなことはないだろう。9月には、恐らく、インフレが、一層顕著な減速傾向を示すと考えられる。原料価格が大幅に下落すれば、2009年上半期のインフレ率は、1桁台に落ち着くだろう。結果として、名目金利の上昇率は、妥当な水準に止まると予測される。消費支出は、恐らく、依然、高い水準で維持されるだろう。消費支出に変化が現れるまでには、ある程度の時間がかかる(賃金上昇率は、年率28%を維持している)。UBSでは、ロシア中央銀行が、今後、通貨バスケットに対するルーブル安を許容することはないだろうと考えている(現在、ロシア中央銀行が保有する準備金は5800億ドル相当であり、ルーブル安を抑えるだけの蓄えはある)。しかし、仮に、原料価格の下落傾向が続けば、ルーブル安は避け難い。UBSは、原油価格下落を背景としたルーブル安が発生するとすれば、12ヶ月後になるだろうと考えている。
その他、報告書では、この数年にわたって、ロシア株には大きな成長期待がかけられていたが、その成長率は、次第に、低く評価されてきていると指摘されている。2008年におけるロシア市場のPERは、6まで低下した。原料業界を除外しても、市場のPERは一桁に近い低い水準にある。
こうしたことを背景に、ロシア企業の利益生成能力に対する市場の期待は、すでに、減退してしまった。従って、アナリストは、予測される原料価格の下落は、すでに、ある程度、株価に反映されていると見ている。
UBSのアナリストによる見解は以下のとおりである。ロシア株の株価水準は、次第に、魅力的なところまで下落してきたため、投資家は、徐々に、ロシア市場における足場の拡大に着手しても良いだろう。
米住宅金融機関2社に公的支援が決定:金融危機は収束へ向かうか?
米財務省は、この30年間で最大の赤字を計上したファニーメイとフレディマックを一時的に(1年間)政府の管理下に置くことを決定した。これは、ポールソン財務長官及び連邦住宅金融局(FHFA)のロックハート局長が、9月7日に明らかにしたものである。救済計画によると、公的支援の額は、ファニーメイとフレディマックそれぞれに対して1000億ドルとなる見込み。また、上記2社の経営責任者は交代し、配当金支払いも停止する。米住宅金融機関に対する公的支援が実施されることで、金融危機は収束に向かうのではないかとも思われる。しかし、多くのアナリストは、猶、ネガティブな見通しを指摘している。
米政府は、直接的な支援措置を取る以外に、ファニーメイとフレディマックを救済することは不可能との認識に至った。両社の負債額は、合わせて5兆4000億ドルに上る。ポールソン財務長官は、米国金融システムの中核とも言える両社のどちらかが破綻すれば、国内ばかりか、世界の金融市場に大きな混乱を引き起こすと述べた。しかし、多くのアナリストは、今回の政府による措置が、火急の問題の解決を図る上で、一時的なものに過ぎないとの見解を示している。
Master BankのアナリストであるMitryaev氏は、短期的な観点からすると、米国金融システムの安定化を図る上で、公的支援決定は、大きな前進であることは間違いないと述べる。今回の措置が発表されたことによって、世界の証券市場は、ポジティブな反応を示した。アジア市場はこの支援策を好感し、すでに、3-5%上昇した。また、主要先物指数も、2%以上上昇した。ロシア市場も例外とならず、3-4%の上昇を示し、銀行株(ズベルバンク・VTB)が、上昇率上位銘柄となった。
さらに、会計コンサルティング会社Finexpertizaの社長であるMikaelyan氏は、短期的に、こうした指数は、さらなる上昇を示すだろうと予測している。なぜなら、米住宅ローン市場は、1年以上にわたって世界の金融市場を揺るがせてきた金融危機の震源地であるためである。市場の不透明感は払拭された感があるが、こうした情勢は果たして長く続くだろうか。
多くのアナリストは、長期的観点からすると、今回の米政府の措置は、米国経済にとって大きな打撃であるとの見解を示している。ファニーメイとフレディマックの負債を負担することで、米政府は、巨額の赤字をさらに上乗せする格好となった。投資会社CTrustの金融市場分析部部長であるKuzmitsky氏は、国家予算から救済資金を調達するか、新たに国債を発行するかということであれば、米政府は、後者を選択するだろうと考えている。
会計コンサルティング会社FinexpertizaのMikaelyan氏も、同様の見解を示している。同氏は、「米政府が、新たに国債を発行せず、救済資金を調達できるとは考えにくい。次期米大統領が、国家予算を切り詰めることはないだろう。」としている。財政赤字が続けば、早かれ遅かれ、ドル安が誘発されるだろう。また、Mikaelyan氏は、仮に、アメリカが、資金難に陥るようなことになれば、1年間程度は何とかなるにしても、その後のドル安は、さらに深刻なものになるだろうと指摘する。
今後、ファニーメイとフレディマックの株主に対して、配当金の支払いが行われることは、中期的に期待できないだろう。Sobinbankの市場環境及び金融部門アナリストであるVoronkov氏は、当然のことながら、両社の負債は、ロシア政府の準備金を含め、返済されるだろうとしている。また、同氏は、1年後には、両社が完全に国有化されるか、或いは、数社に分割され、金融危機が沈静化した後にIPOが実施されると考えている。
全体として、住宅金融2社に対する救済措置は、その状況を抜本的に変えるものではないことから、アメリカの金融システムに対する信用危機が後退したわけではない。Master BankのアナリストであるMitryaev氏は、避けることのできないアメリカの金融システム崩壊が、いくらか先延ばしされただけであると言及している。
FINAM
金属・原油価格の動向は?
ロシア証券市場が下落している大きな要因は、原料価格の下落である。9月2日、ニューヨーク・マーカンタイル取引所では、WTIの10月渡しが約5ヶ月ぶりの安値となる109.71ドル/バレルを付けた。こうした下落傾向は、今後も続くと思われる。3日の原油先物相場でも、全ての油種が値を下げている。
多くの専門家は、今回の原油価格下落が、天候絡みでの投機的資金流出であるとの見解を示している。当初、メキシコ湾で発生したハリケーンに対する警戒感から、原油価格は一時上昇したが、その後、ハリケーンの威力が弱まったため、供給不安は解消し、原油価格は下落した。投資会社OtkrytieのアナリストであるMilchakova氏は、第3四半期末から第4四半期初旬にかけては、アメリカを始め、天候が安定しない時期であるため、原油市場が乱高下する傾向があると指摘する。
Milchakova氏は、OPECが原油の減産或いは増産を決定する9月9日以降、原油市場の状況は変化するだろうと考えている。同氏は、「OPECは、減産の方に動くだろう。そうなれば、原油相場は再び上昇し、130ドル/バレルの水準、或いは、より高値を付けることもあるだろう。」と予測している。
一方、Petrocommerce銀行のマクロ経済主任アナリストであるSurikova氏は、今秋にかけて、原油価格の下落傾向は続き、特に9月には104ドル/バレル台を付ける可能性もあると考えている。同氏は、上記のような予測に至った理由として、原油に対する需要の減少、及び、ルーブル高、信用危機の沈静化を挙げている。また、同氏は、原油需要の増加が見込まれる冬季には、価格の下落傾向に歯止めがかかるだろうとしている。
投資会社UMISのアナリストであるLebedev氏も、原油需要が伸び悩むとの見方が浮上してきたために、原油市場が影響を受けており、今後もしばらくは、こうした傾向が続くだろうとの見解を示している。しかし、OPECが減産に踏み切り、季節的要因から需要が高まることを考慮に入れると、第4四半期には、原油価格は上昇に転じるだろう。Lebedev氏は、2008年末時点における原油価格を100-120ドル/バレルとしている。
また、金属価格も、米ドル為替レートの上昇及び需要鈍化懸念から、下落している。9月2日のロンドン金属取引所における銅先物価格は、0.6%下落した。Petrocommerce銀行のSurikova氏は、銅価格の下落要因として、中国の輸入減を挙げている。オリンピック期間中におけるアルミニウム工場の稼動停止による一時的な輸入減を考慮に入れたとしても、世界的経済減速を背景に、今後、銅価格が上昇することは見込めない。Unikredit AtonのShishikina氏は、銅価格が7200ドル/トンを割ることもありうるが、7000ドル/トンの大台を切るようなことはないだろうと予測している。
中国の需要減は、ニッケル価格にも影響している。Shishikina氏は、「現在のニッケル価格は1万9000ドル/トンで推移しているが、更なる下落も考えられる。中国のトレイダーを対象としたアンケート調査では、今秋半ば以前に、在庫の補充が実施されることはないだろうとの結果が出た。従って、ニッケル価格は、1万7000ドル、或いは、それ以下に下落する可能性がある。」と述べる。
一方、アルミニウムの価格形成には、上記とは異なる要素が影響している。従来、アルミニウム価格は、エネルギー価格と密接に関係している。しかし、Shishikina氏は、中国のアルミニウム製造メーカーが、価格を維持するために、生産量を削減する意向を明らかにしていることから、アルミニウム価格は維持されるだろうと考えている。同氏は、アルミニウム価格に関して、2700ドル/トンを切った辺りが底値となり、その後は上昇に転じるものと予測している。
また、金相場も下落基調にある。9月2日のニューヨーク・マーカンタイル取引所COMEX部門における金相場は、2週間ぶりの安値となる810.5ドル/オンスとなった。この1日で3%下落したことになる。急速なドル高が進んでいることから、多くのアナリストは、金価格の下落基調はこの先も続くだろうと予測している。
投資会社UMISのアナリストであるLebedev氏は、原油価格の動向も、貴金属市場における下落傾向の回復に寄与することはないだろうと考えている。同氏は、金価格、及び、銀価格は、それぞれ、すでに、中期的目標価格である790ドル/オンス、及び、14.5ドル/オンスの水準に達しているとしている。一方、Petrocommerce銀行は、より悲観的な予測を出している。同行のアナリストは、2009年、金価格は700ドル/オンスまで下落するとした上で、600ドル/オンスまで下落すれば、投資先として魅力的であると考えている。
全体として、資源市場は下落基調にあるが、今後の価格動向は、それぞれの資源特有の条件によって左右されると言えるだろう。
FINAM
ロシア、旧ソ連諸国との関係強化が重要課題
9月2日、ロシアのプーチン首相は、ウズベキスタンのカリモフ大統領、及び、ミルジヨーエフ首相とエネルギー分野を始めとする両国の経済協力に関して協議を行った。特に、焦点となったのは、ウズベキスタン領内における新たなガス輸送パイプラインの共同建設に関してである。同ガスパイプラインが建設されれば、トルクメニスタン・ウズベキスタンからの更なるガス輸出が可能となる。今回、両国首脳は、ガスプロムによるウズベキスタン産ガスの買い付け価格に関しても、合意に至った。
しかし、グルジアとの紛争が背景にあるため、次のような疑問が生じてくる。ロシアが、ウズベキスタンとエネルギー分野で提携していくことは本当に有益なのだろうか。或いは、こうした動きは、グルジア問題に関して、旧ソ連諸国の後ろ盾を得ることを目的とした根回しなのではないだろうか。
CIS諸国研究所のカフカース地域部部長であるAleksandrov氏は、今回の協議には、両面性があると考えている。つまり、一方で、これは、両国にとって有益な経済的協力の構築であり、もう一方では、旧ソ連諸国にロシア支持同盟国を形成する意味合いがある。
Aleksandrov氏によると、グルジア問題については、ウズベキスタンの他にも、上海協力機構に加入しているCIS諸国がロシアを支持している。また、アルメニア、及び、ベラルーシもロシア側についている。しかし、アルメニアは、それを公然と表明することは避けたい。表明すれば、アルメニア向けガス輸送のトランジット国であるグルジアが、輸送を停止する恐れがあるためである。
しかし、ロシアとCIS諸国との関係は、各国毎に異なっている。SU-HSEの旧ソ連諸国問題専門家であるSuzdaltsev氏は、近年、欧米諸国との関係強化を積極的に推し進めてきたウズベキスタンが、グルジア問題でどのような立場を示すか、ロシアは懸念していると指摘する。
一方、旧ソ連諸国でも、GUAM加盟国(グルジア・ウクライナ・アゼルバイジャン・モルドバ)は、反ロシアの立場を示している。GUAMは、設立当初から、アメリカの政治経済的支援を受けている。従って、この4カ国による国家連合は、従来、親米路線である。
現在、アメリカは、CIS諸国と軍事的協力関係を拡大しようとしている。グルジア・オセチア紛争の後、NATOは、旧ソ連諸国に基地を配備しようとしている。メリル・リンチのロシア・CIS諸国担当経済学者のTseplyaeva氏は、特に、ウズベキスタンは、基地配備に関して、NATOから魅力的な申し出を受けていると指摘する。同氏は、「ロシアが、ウズベキスタンに対して、さらに利益が見込める提案を提示して、NATOの思惑を阻止する戦略に出ようとしているとも考えられる。また、ウズベキスタン産ガスを高く買い付け、ロシアが支配するガス輸送パイプラインを通し、ウクライナ向けのガス価格が引き上げる可能性もあるだろう。つまり、ウクライナ向けガス価格が引き上げられる一方、ウズベキスタンは、ロシア支持を堅持するだろう。」と言及する。
Sobinbankの市場分析部部長であるRazuvaev氏は、ロシアが、以前から、中央アジア産ガスの輸出を管理しようとしていた背景には、経済的観点のみならず、地政学的思惑が絡んでいたと指摘する。同氏は、「これは、中央アジア諸国にとって非常に有利である。パイプラインの建設にはロシア企業が投資するだけではなく、ロシアが買い付けるガス価格はヨーロッパ向け価格と同額である。」と述べる。
また、ガス買い付け価格の引き上げに関して、ガスプロムは、トランジット料(通過代金)を導入する意向を示している。従って、中央アジア産ガスの新たな価格が反映されるのは、ガス輸入国のみである。SobinbankのRazuvaev氏は、ガスプロム株にとって、このニュースはポジティブであるが、ウクライナのエネルギー事情にとっては、大きな衝撃となるだろうと指摘する。
ロシアにとって、ウズベキスタンとの経済関係を発展させることは、今や、重要課題となった。そこには、地政学的意図が垣間見える。ロシアの政治学者は、依然、旧ソ連の盟主であるロシアが、グルジア・オセチア紛争の過程で、そのことを改めて顕示した格好となったと指摘する。しかし、現在、情勢は緊迫している。ロシアとしては、同盟国が西側に持っていかれないよう、旧ソ連地域における勢力の拡大を期す必要がある。
FINAM
EU、ロシアへの最後通告か
欧州連合(EU)は9月1日、ブリュッセルにおいてグルジア紛争に関する緊急首脳会議を開催した。会議は結局、ロシアに対する制裁を発動しなかった。しかし、EUはロシアに対して、ロシア軍がグルジア領からの撤退を完了するまで、包括的協力協定の締結交渉を凍結するという事実上の最後通告を突きつけた。欧州首脳陣はロシアがこの条件を飲まない場合、対露関係の見直しを行うと宣言した。
緊急首脳会談後、EUがロシアに示した態度は今までにないほど厳しいものであった。EU加盟国はロシアのグルジアにおける行動と南オセチア・アブハジアの独立承認を厳しく非難、他国にロシアの動きに追従しないよう呼びかけた。さらにEUは、ロシア軍がグルジア領内から撤退するまで、包括的協力協定の締結交渉を凍結すると表明、ロシアに最後通告を突きつけた格好だ。ロシア軍の撤退が11月14日にニースで開催予定のロシア-EUサミットまでに実現されない場合、EU側はロシアとの関係をあらゆる分野で見直す意向をちらつかせた。
一方、EU首脳陣は、ロシアに孤立を深めず、対話を継続するよう呼びかけた。更に、今回、EUはロシアに対して制裁措置を発動しなかった。これをロシアは緊急首脳会議に対する外交的勝利と受け止めた。コメルサント紙は「EUはロシアに制裁措置を発動しないだけでなく、ロシアに対していかなる行動も起こさなかった。」というスルツキー下院議員(国際問題委員会副委員長)の言葉を伝えた。同氏は続けて、「これはもちろん前進である。緊急首脳会議の結果は、欧州が建設的対話を望んでいるということを示した」と述べた。
確かに、懸念が最高潮に高まっていた中でのEUの今回の決定は、ロシア側にとっての成功とみなすことができる。何故ならば、緊急首脳会議の数日前、欧州の政治家や外交団はロシアに対し、ロシアの行動は深刻な結果を招くと警告していたためである。ポーランドは今回の首脳会議の最終決議として、ロシアに対して経済・金融制裁措置を発動することを見込んでいた。コメルサント紙の情報によると、最終決議として、大型事業案件に関するロシアへの投資削減を盛り込んだ案や、ロシアからの鋼鉄、アルミニウム、肥料の輸出を制限する案も検討されていた。フランスのクシュネル外相も制裁措置発動の可能性を排除していなかった。ロシアに対して厳しい態度をとったのはイギリスであった。イギリスのミリバンド外相は「ロシアによるグルジア侵攻」に対して連立して対抗していくことを提唱していた。イギリスの外務省筋によると、包括協力協定締結の凍結を提案したのはほかならぬブラウン首相だったという。
しかし、緊急会議前に欧州各国の論調は変化した。ソラナEU共通外交・安全保障政策上級代表は会議開始数時間前、ブリュッセルにて、「対露制裁については緊急会議の議題には上っていない」と表明したほか、ドイツのメルケル首相やフランスのフィヨン首相も同様の見解を示した。スペインのモラティノス外相は「制裁ではなく、対話の時が来た」と発言。紛争初期段階で欧州一の強硬派であったリトアニアも思いがけず制裁反対の立場に回った。リトアニアのバイテクナス外相は、いかにロシアを罰するかではなく、いかにEUの安全保障を確保するかを考えるよう呼びかけた。
EU加盟国が対露制裁に反対する意向を持っていることを察したポーランドもEU路線に同調した。コメルサント誌の情報筋によると、ポーランドは11月に開催されるロシア-EUサミットの延期と包括協定締結阻止に重点を置く立場をとった。その他、ポーランドがグルジアに対して具体的支援に乗り出す意向を示している。それによるとポーランドは、被災したインフラの復興に対する資金供与をはじめ、EU指揮下での国際平和維持軍の派遣、グルジア人難民に対する人道援助などを行う構え。結果としてこれらの提案は緊急首脳会議の決議に含まれた。
ポーランドの強硬路線軟化に関してはおそらく、会議前夜ポーランドのトゥスク大統領のもとに、EU議長国であるフランスのサルコジ大統領からかかってきた電話が影響しているものと思われる。6項目の和平原則の起草者の一人であるサルコジ大統領は、緊急首脳会談の最終合意の論調を軟化させるためにあらゆる努力を払った。会議終了後の記者会見で同大統領は、EUがロシアとの協調路線を希望している旨を説明するのに時間を割いた。フランスのフィヨン首相が、サルコジ大統領が引き続き対話を行うため早期に再度訪露を検討していると発言したのは昨日のことであった。
ところで、会議開始数時間前、ロシアが予想外の譲歩案を提示してきた。ロシア外務省の情報報道部が、アブハジアと南オセチアの緩衝地帯におけるEUの平和維持軍駐留をロシアが容認するとの発表を行ったのだ。発表には「EUが容認すれば欧州安全保障協力機構(OSCE)が平和維持軍を展開することも考えられる」と述べられている。ほんの2週間前、ロシア側はグルジアにOSCEの監視団以外のいかなる多国籍軍の派遣も断固として拒否していた。外務省筋によると、今回の譲歩はタイミングを見計らって出してきたものである。これによりロシアは、今回の件に関してはロシアとは対立路線を歩むべきではなく、対話路線が必要であるということをサルコジ大統領に示した格好だ。おそらく、緩衝地帯へのEU治安部隊配備に関してサルコジ大統領とロシア側の間で話し合いがなされるであろう。
包括協力協定締結だけでなく、EUの対露関係の今後の成り行きは、多分にロシア軍のグルジアからの撤退期限に関する露仏両国の大統領の交渉にかかっている。しかし、昨日欧州首脳陣が述べたように、いずれにせよ対露政策は以前のように戻ることはないであろう。とくに、今回のグルジア紛争により、欧州はエネルギー資源をロシアに依存しているということを思い知らされた。イギリス外務省によると、ブラウン首相は緊急首脳会議において各国首脳に、EUが独立路線を歩むには、エネルギー確保に関して供給地の多様化を図るべきだとの見方を示した。これに関して、ナブッコパイプラインへの一層の投資が必要であるとの認識が共有された。ナブッコパイプラインについては、ロシア寄りとも言われるサルコジ大統領も、急に取り上げはじめている。
ところで、欧州首脳陣の懸念を裏付けるかのように、ロシア側は突然、9月2日から4日までヤマルから欧州へのガス供給を停止すると発表した。ガスプロムによると、今回の供給停止はポーランド及びドイツ領内におけるパイプラインの通常修繕作業にかかるものと説明している。修繕作業終了後、9月4日午後10時に同パイプラインを通過するガス供給が再開されるとガスプロムは断言している。
コメルサント紙、FINAM
投資信託への関心は再び後退か
2008年7月には、個人投資家の投資信託に対する関心回復が認められたが、8月には、再び、そうした傾向に陰りが見えてきた。運用会社の予測に反し、投資家は、オープンエンド型投資信託から、3億8000万ルーブル以上の資金を引き出した。
8月は、オープンエンド型投資信託から資金が流出する傾向が再燃し、運用会社の期待を裏切る結果となった。7月、投資信託への入金額が16億ルーブルとなったことが明らかとなり、市場関係者は、投資信託の回復基調を予測していた。しかし、Investfunds.ruのデータに基づくコメルサント氏の評価では、8月にオープンエンド型投資信託から流出した資金は3億8290万ルーブルとなった。
8月、投資家心理は、大きく揺れ動いた。8月の1週目は1億4280万ルーブルが投資信託から引き出されたが、2週目3週目には、8億7000万ルーブルの入金があった。これについて、多くの専門家は、ロシアとグルジアの軍事衝突を機に証券市場が下落したためとの認識を示している。
今回の紛争によって、ロシア市場は、2006年秋の水準にまで下落した。ロシアが軍事介入に踏み切った8月8日、MICEX指数は5.26%、RTS指数は6.51%下落した。年初来、ロシア市場は、22%以上下落したことになる。また、市場の時価総額も1兆ドル以下に低下した。運用会社Alfa Capitalの社長であるKhabarov氏は、「市場が大幅に下落している中で、投資信託での投資は効果的である。」と述べる。ロシア企業の株価下落は、投資信託を利用する投資家にとって大きな好機となり、株式型投資信託が入金額でトップを占めた。株式型投資信託への個人投資家の出資額は8億9420万ルーブルとなった。もっとも多額の入金があったのは、投資信託Petr Stolypin(UFG Asset management)で4億2640万ルーブルであった。次いで、Alfa-kapital株式(Alfa-kapital運用会社)の3億110万ルーブルであった。Alfa CapitalのKhabarov社長によると、8月には、新たな顧客が多額の資金を一度に投資したことにより、投資信託への出資構造が変化した。
しかし、8月の最終週には、投資信託に関する関心が再び後退したため、運用会社は、計画の変更を迫られた。最終週始めの4日間でオープンエンド型投資信託から引き揚げられた資金は10億ルーブルを上回った。UFG Asset managementの運用部部長であるRyabov氏は、「8月の最終週に、これだけ大規模な資金の流出があったのは、ロシア市場が一時的に反発したためである。」と考えている。長期続落の後の8月28日、RTS指数は4.1%、MICEX指数は4.8%上昇した。UFG Asset management のRyabov氏は、これまで損失を出していて、とにかく利益を確定したいという投資家にとって、この日の上昇は、売りのサインとなったと指摘している。また、Gazprombankの副社長であるMilyukov氏は、「下落基調が長く続き、投資家は、市場の動向を左右しているのが、企業のファンダメンタルではなく、カフカースにおける紛争の行方であると認識した。」と述べている。
一方、株式型投資信託と違って、債権及び混合型投資信託は、8月全体を通じて、資金が引き出された。全体として、債券市場は低迷が続いている。そのため、債権型投資信託の人気は著しく低下し、8月には6億6170万ルーブルの資金が引き出された。GazprombankのMilyukov副社長は、「銀行預金の収益性が債権投資の収益性を勝っている間は、債権ファンドに投資魅力はないだろう。現在、同一の銀行による預金と債権ファンドでは、預金の収益性の方が高い。」と言及する。
アセットマネージャーは、すでに、今後の投資信託への資金流入額を予測することを断念している。Alfa CapitalのKhabarov社長によると、現在、投資信託に資金を預けている投資家は、リスクを承知しており、そのリスクを低減するために、投資期間を平均して2年延長している。また、GazprombankのMilyukov副社長は、現在、株式ファンドに投下されている資金は、大部分が投機的なものであり、いつ資金が引き揚げられないとも限らないと注意を促している。
運用会社では、投資信託の資金流入額と流出額が、せめて、2008年通期としては同等になってほしいと願っている。現在のところは、流出額の方が勝っており、2‐8月における流出額はおよそ140億ドルに上っている。一方、2008年、投資信託への資金流入が確認されたのは、1月(51億ドル)と7月(16億ドル)のみである。こうした状況を受け、アセットマネージャーは、現在の顧客を手放さないようにすることが重要課題であると位置づけている。
FINAM
ロシアの経済的孤立はあり得るか?
米露間の政治的軋轢と、それに伴い、対露経済制裁の可能性が出てきたことから、アメリカの輸出業者を始めとする企業経営者は不安の色を濃くしている。米露の貿易関係に亀裂が入ることを懸念したアメリカ国際貿易委員会(ITC)は、ブッシュ大統領に対して、何らかの経済制裁を発動する前によく検討してほしいと嘆願した。 ITCは、ゼネラル・エレクトリック、ボーイング、マイクロソフト等アメリカの大企業の代表が取りまとめている委員会である。
アメリカ商工会議所は、ロシアのWTO加盟に関する協議を継続して実行すべきと呼びかけている。これまでのWTO加盟交渉で合意した内容が履行されない場合(ロシアは既に表明している)、アメリカの鶏肉輸出業者及び保険会社・銀行に、ネガティブな影響が及ぶことが懸念されるためである。
しかし、ロシア連邦農業・畜産監督局は、9月1日より、ロシアへ鶏肉を輸出しているアメリカの業者19社を輸入条件に違反していたとして、業者リストから外すことを決定した。この他にも、29社がクレームの対象となっている。ロシア政府は、ロシアのWTO加盟を望んでいないアメリカに対して、今回、鶏肉輸入停止措置を取ったことについて、政治的意図はないとしているが、果たして、本当にそうだろうか。
アメリカからの輸入削減は、ロシアの国内農業にとっては、非常に望ましい帰結である。また、プーチン首相は、す でに、農業部門の発展に向けた投資の実施を約束している。従って、数年後には、ロシア国内の養鶏業も振興が図られるだろう。しかし、国内の養鶏業が発展する前段階における鶏肉の価格はどうなるだろう。価格の問題に関する限り、ロシア政府は、口をつぐんでいる。
従って、米露の貿易関係に亀裂が入れば、双方にとって、相応の影響が出てくる。貿易関係の保持は、ロシアにとってもアメリカにとっても重要である。ロシア国内における専門家の多くは、ロシアとアメリカは、主要貿易相手国ではなく、取引高は少ないものの、双方の貿易関係に支障が生じれば、両国の経済にしわよせが及ぶだろうと指摘している。
ロシア経済貿易発展省のデータによると、ロシアの対外貿易に占めるアメリカの割合は4%以下であり、取引高を見ると、アメリカは貿易相手国として第8位となっている。一方、アメリカの対外貿易に占めるロシアの割合は1%に満たず、貿易相手国として、ロシアは25位である。
しかし、投資会社SOVLINKのアナリストであるArmyakov氏によると、アメリカの企業経営者は、ロシアとの貿易面での協力が、今後発展していくことを期待している。同氏は、「アメリカ側がロシア市場から撤退しないのは、魅力を感じているためである。一度、手に入れてしまえば、成長を待つばかりである。仮に、アメリカ企業が、ロシア市場から手を引けば、アジア企業等が、その後に進んで参入するだろう。」と指摘する。
一方、ロシア側も、対米貿易の発展には関心を寄せている。米露間の経済貿易協力関係に関する経済貿易発展省の報告書には、「近年、米露間の貿易は明らかに発展してきてはいるが、両国の経済力から考えれば、取引高はまだまだ少ない。」との認識が示されている。
2007年、米露貿易は、7年ぶりに、ロシアの輸入超となった。ロシアの主要輸出品目は、原油や金属等、加工の程度が低いものである。一方、アメリカの主要輸出品目は、経済の技術的再建に不可欠な機械類や輸送機器類である(およそ65%を占める)。アメリカの輸出品目に占める食品の割合は、わずか12%ほどでしかない。
Petrocommerce銀行の主任アナリストであるLapshina氏は、上記のことを考慮に入れると、食料品(特に鶏肉)以外にも、アメリカからの輸入品が規制されることになるだろうとの見解を示している。同氏は、貿易規制に対しては、冷静に考えなければならないとして、「政治的意図が絡んでいることから、当然、ロシアもアメリカも、貿易国として、他国に重点を置くようになるだろう。しかし、それが、両国にとって、利益とならないのは明らかである。」と指摘する。
今のところ、まだ、対露経済制裁が発動される可能性は残っている。また、ロシアが、WTO加盟交渉における合意内容を破棄しないとも限らない。特に、アメリカは、民生用核エネルギー分野での協力に関するロシアとの合意を取り消すことを検討している。しかし、国際エネルギー機関の専門家であるPervukhin氏は、合意内容の破棄通告には、長期を有する手続きが必要であることから、単なる協議で終わるだろうと考えている。また、核エネルギーに関する合意は、両国にとって必要である。アメリカのエネルギー関連企業が、割安なロシアの核燃料を取得してきたことを考慮に入れると、アメリカにとっての重要性も決して低くはない。
また、米露の協力関係という点では、宇宙開発事業にも問題が生じる恐れがある。アメリカ大統領選の候補者であるマケイン氏を始めとする共和党の上院議員3名は、ブッシュ大統領に対して、2010年に予定されているスペースシャトルの全機退役処分を中止するよう、NASAに働きかけるべきとの書簡を送った。政治的状況が緊迫した中で、アメリカ側は、米シャトル引退後の数年間、宇宙への輸送手段がロシアのシャトルに依存しなければならないことを懸念している。
政治的軋轢によって、米露の協力関係には、全分野にわたって悪影響が及ぶだろう。しかし、それは、双方にとって望ましくない。多くの専門家は、経済的にロシアが孤立するようなことはないだろうと考えている。
FINAM