ロシア進出支援とロシア株専門の証券会社、ARUJI GATE証券(アルジゲート証券)

ロシア経済トピックス: 2009年8月

かすかな希望-0.5%の楽観主義

政府関係者は、ロシア経済の成長を確信している。8月24日、シュヴァロフ第1副首相と経済発展省クレパチ次官は、経済が回復していると表明した。しかし、実体経済への波及効果を期待するには、その成長は余りに弱い。


金融危機が発生してからというもの、ロシア政府は、各国政府と同様、悲観的な予測ばかりを示していた。少し前まで、クレパチ次官は、銀行発の金融危機第2弾が発生するリスクに神経を集中させていた。しかし、8月24日、クレパチ次官は、統計を根拠に、ロシア経済が底入れしたとの見解を明らかにした。今年7月のGDPは前年同期比マイナス9.3%となったが、暦・季節調整後の同値は、前月比プラス0.5%となった。シュヴァロフ第1副首相も、経済成長の回復を是認した。もっとも、政府関係者は、現在のところ、好転の兆しはあるものの予断はできないとの認識を述べている。ロイター通信は、「成長の動きは抬頭してきたばかりで、後3ヶ月間程度は、状況を見守っていく必要がある。」とのシュヴァロフ副首相の発言を引用している。


会計監査法人FBKのニコラエフ氏は、今の段階で言えることは、経済成長の減速が緩やかになったということのみであるとの見解を示している。経済発展省が報告している経済成長は、統計上の誤差と捉えてもおかしくない程度のものである。また、1ヶ月間の推移状況のみで結論を出すのも適当ではない。これに加え、ニコラエフ氏は、7月の鉱工業生産について、上昇したように見えるが(ロシア国家統計局のデータによるとプラス4.7%)労働日数調整後の値はマイナスであると指摘する。会計監査法人Grant Thorntonのサプロノフ氏も、「状況は、以前に比べると、安定してきたが、ロシア国内における経済成長要因は見えてこない。長期停滞というシナリオがより現実味を帯びてきた。」と同様の見解を示している。


現在、経済成長、並びに、国家予算の充足は、ロシアの輸出資源を取り巻く環境にかかっている。資源市場における長期上昇トレンドを背景に、世界の原油需要は、依然、低迷しているが、原油価格が1バレルあたり30ドルにまで下落するといった極端なシナリオをまともに受け止めている人は最早いないだろう。資源価格は、余剰資金がどれだけ投機マネーとして入ってくるかによって決まってくる。その典型が原油先物だ。サプロノフ氏は、原油価格が大きく下落することはないと考えている。同氏は、「金融危機、経済危機のピーク時でさえも、資源需要の落ち込みは、たったの1.5%であった。」と指摘する。ガス価格の下落を予想する専門家も少ない。市場参加者は、少なくとも、液化天然ガスの価格は原油に先駆けて上昇するだろうと予想している。


ロシア経済の安定化に必要なもう1つの条件は、国際クレジット市場の活性化であるが、成長を推進する要素はやはり見えない。全国世論調査センターが実施したアンケート調査によると、金融危機対策の効果が出ていないために、好ましいニュースがないことがロシア人の批判的感情を強めている。ニコラエフ氏は、「政府関係者にも、明るい見通しを示したいという願いはある。しかし、そうした楽観主義が通用するのは、金融セクターのみで実態経済への影響力はない。」と指摘する。


原油バブルは、金融危機以前におけるロシアの経済成長の源でもあったが、現在の不況から脱却する上で考えられるたった1つのシナリオである。11月にアメリカが原油市場における投機取引に制限をかけることを決定すれば、原油価格は大きく下落する可能性がある。ニコラエフ氏は、中国等が発信するネガティブなニュースも、原油価格に影響する可能性があるとしている。金融危機を予測していたノーベル賞受賞者のヌリエル・ルビニ氏は、フィナンシャル・タイムズへの寄稿の中で、経常収支の黒字が大きい国(中国・ドイツ・日本)における国内需要の低下が世界経済の成長にブレーキをかける可能性もあると指摘している。上記各国の需要低下を招く要素として考えられるのは、経常収支赤字の問題を是正しようとしているアメリカの取り組みである。ルビニ氏は、今後数ヵ月は経済成長が見込めるとしても、さらに深刻なマイナス成長に後退するリスクは高いとしている。それに加え、財政赤字問題に対するアメリカの対策は、どちらに転んでも、新たな景気後退につながる可能性がある。財政赤字を解消しようとすれば、スタグデフレーション(景気後退とデフレが共存する状態)を招くことになる。しかし、財政赤字を維持するとしても、スタグフレーション(景気後退とインフレが共存する状態)を招くことになるだろう。



出典:RBC紙

7月のロシア鉱工業生産指数は前月比+4.7%

ロシア国家統計局のデータによると、2009年7月、ロシアの鉱工業生産指数は前月比4.7%の上昇を示した。これには、専門家も目を見張っている。前年同期比の数値も、多くの専門家の予測を上回るマイナス10.8%となった。比較対象として、2009年6月の鉱工業生産は5月比プラス4.5%で、前年同期比ではマイナス12.1%であった。2009年1-7月の鉱工業生産は、前年同期比14.2%のマイナスである。

20090820topic.jpgTrust銀行の主任エコノミストとであるNadorshin氏は、「第3四半期には、鉱工業生産の回復基調が本格化するだろうと考えていた。しかし、7月の鉱工業生産が6月の数値を大きく上回るとは予想外であった。今年の初夏は、労働日数の多さやサッカーの影響で低下した昨年6月の指数による好影響が予想されていた。」と述べる。昨年6月には、UEFA欧州選手権があったために休日が移行された。従って、労働日が少なく、生産性も落ちていた。

Nadorshin氏によると、現在、回復の動きが認められるは、採掘業界、及び、その他製造業の各分野である。前者は、対外需要が堅調に推移したことによって、好転の兆しが見えている。従って、採掘業界の持ち直しは、意表をつくものではないだろう。Nadorshin氏は、製造業の復調こそ、多くのロシア企業にとって環境が改善していることを示すものであると指摘する。ましてや、すでに2ヶ月連続で、各種生産は伸びている。同氏は、「食料品、軽工業製品、燃料製品の出荷状況は改善している。また、建設資材の生産も活発化している。エネルギー産業の業績もまずまずだ。自動車製造行でも特定の製品では、出荷が伸びている。」と述べる。

アルファ・バンクの主任エコノミストであるNatalia Orlova氏は、世界的な需要の回復によって、ロシア企業が設備稼働率を上昇させていることが製造業界復調の要因であるとしている。また、同氏は、政府の財政出動によって、一部企業では、運転資金が十分に確保されていると述べる。しかし、Natalia Orlova氏は、国内需要が依然弱く、金融機関の貸し渋りも続いていると指摘する。こうした要素は、鉱工業生産の回復を圧迫してしまう。Natalia Orlova氏は、「こうしたことから、鉱工業生産の復調は一過性のものであり、2009年下半期には、再び、低下する可能性もある。」としている。

Trust銀行のNadorshin氏も、需要の回復ではなく、在庫調整の進展によって、鉱工業生産が伸びている可能性を否定していない。後者の要因が優勢であるとすると、今後数ヶ月間は、景気後退の鈍化ペースに陰りが出てくるだろう。Nadorshin氏は、2009年12月までに鉱工業生産の低下が前年同期比7-8%になるとしても、2009年通期としての鉱工業生産の低下率は2桁になるだろうと予測している。

ING Wholesale BankingnoエコノミストであるTatiana Orlova氏も、在庫調整の進展がセメントやその他建設資材の生産が増加している要因であるとしている。Tatiana Orlova氏は、「建設業界の復調は、ある特定の在庫がなくなり、補充することになったことで説明がつく。」と述べる。同氏は、こうした回復傾向が今後も続くとは考えていない。

Tatiana Orlova氏は、2009年通期としてのロシアの鉱工業生産はマイナス12%になると予測している。同氏は、7月の明るい兆しでさえも、厳しい状況を物語っていると指摘する。第1に、前年同期で比較した場合、昨年7月の指数が低かったことがプラスに働いた(当時すでに、若干の低下傾向は始まっていた)。第2に、労働日数が多かったことによって、実情は若干潤色されている。7月の労働日数は、6月より2日多かった。従って、対前月で4.7%上昇したといっても、そう大きな伸びではない。Tatiana Orlova氏は、上記のような要因によって、対前年同期での8月の鉱工業生産指数はマイナス13%となり、対前年同期でマイナス10.8%であった7月と比較して逆に悪化する可能性があるとしている。

この他、鉱工業生産の動向を分析する際には、季節要因も勘案する必要がある。経済発展省のクレパチ次官によると、季節要因を考慮に入れた場合、7月のロシア鉱工業生産の上昇率は、前月比プラス4.7%ではなく、たったのプラス0.9%である。もっとも、6月の鉱工業生産の前月比上昇率は0.8%とより小さかった。

Tatiana Orlova氏によると、2009年でもっとも厳しい時期は、第2四半期であった(2009年4-6月の鉱工業生産は、前年同期比15.4%のマイナスであった)。同氏によると、工業セクターの底入れも、第2四半期であった。Tatiana Orlova氏は、現在の状況を「底ばいでの安定化」と形容している。

問題は、その安定化にどれほど時間がかかるのかということである。投資会社EnergokapitalのアナリストであるIgnatyuk氏は、今後数ヶ月間、鉱工業生産は、若干の改善を示す可能性があると述べる。その一方で、同氏は、2010年下半期の状況悪化を予測している。その頃までには、政府の金融危機対策予算が底をついてしまうからである。Ignatyuk氏は、現在認められる鉱工業生産の上昇を導いたのが政府の財政出動であると考えている。同氏は、「鉱工業生産の増加は、政府や金融当局の対策、並びに、財政出動の成果である。しかし、ロシアの消費は伸びておらず、在荷過剰のリスクがある。従って、鉱工業生産指数の上昇は、一過性のものとなるだろう。」と述べる。

FINAM

2009_08_21L

  

プーチン首相の夏休み

先週、プーチン首相が訪れたのは東シベリアの地である。バイカル湖の湖底を潜水艦「ミール1」で視察し、環境会議を開催したイルクーツク訪問の後、プーチン首相は休暇を取り、トゥヴァ共和国に向かった。カメラが付いて回る中、プーチン首相は川を泳いだり羊飼いの生活に親しんだりした。

20090811topic.jpgトゥヴァ共和国でのプーチン首相の休暇は、外国のメディアも注目した。数日間に渡って、出版物には、トゥヴァ川でバタフライをしたり、乗馬を楽しんだりする首相の姿が掲載され、「ロシアのインディアナ・ジョーンズ」、「マッチョ」、「アクションマン」、「マルボロマン」等の見出しが躍った。政治技術研究センターの専門家であるMakarkin氏は、この休暇中のメディア露出について、「今回は、プーチン氏が大統領であった頃の強くて頼りになる人物というイメージが披露されている。現在、彼は、金融危機下において、首相の重責を担っている。プーチン首相にとって、大統領時代のイメージを維持することは重要である。」と説明する。

モスクワ大学の社会問題研究所のBadovsky副所長も、Makarkin氏と同様の見解を示している。同氏は、プーチン首相のPR活動には、金融危機下においても、支持率や信頼感を維持したいという現実的な目的があることが明らかであると指摘する。Makarkin氏は、「工場の操業停止を受けて失業した住民が抗議行動を起こしたサンクト・ペテルブルグ郊外の町ピカリョヴォに乗り込み、工場の操業再開を迫った一件もそうだし、また、スーパーマーケットを視察し、商品価格の引き下げを指示した一件もそうである。」と、金融危機からの守護者としての姿を印象付けるプーチン首相の最近の足取りを示した。

政治技術研究センターのMakarkin氏は、「経済危機の時、多くの国では、首相のイメージが"景気の低迷"や"失業率"等に影響される。そして、大概、経済危機が首相の支持率を高めることはない。しかし、ロシアでは別である。」と述べる。

Makarkin氏によると、ロシアの世論では、現在の経済危機と首相の働きは、何ら関連付けられていない。操業停止となった工場に残された従業員が幹線道路を封鎖して抗議活動を行いながらも、首相の辞任や内閣の総辞職を求めるどころか、プーチン首相が事態解決に動いてくれるようアピールしたことは、それを裏付けている。

プーチン首相が高い支持率を誇っていることは、世論調査センターが実施した最新の調査にも表れている。世論調査センターのデータによると、プーチン首相の支持率は、金融危機前と変わっておらず、53%のロシア人がプーチン首相を政治家の中でもっとも信頼できるとしている。プーチン首相の支持率は、メドベージェフ大統領にも勝っている。メドベージェフ大統領の支持率は45%である。大方の政治学者は、大統領になって1年以上が経った今も、メドベージェフ大統領はロシア最大の有力者になり切れていないとしている。

政治技術研究センターのMakarkin氏は、「現在、プーチン首相と景気低迷を結びつけるような世評はあまりない。官僚やアメリカ政府の失政に関連付けるというのが一般的な風潮である。プーチン首相の高い支持率は維持されている。問題の責任を取る官僚がいる一方で、プーチン首相は悠然と構えて責任を追及してきた。プーチン首相は、自信をみなぎらせている。」と述べる。

プーチン首相の国内行脚について、多くの政治学者は、選挙キャンペーンの開始ではないかとの意見も口にしている。しかし、プーチン首相の歴訪を選挙戦の一環だと考えていない専門家もいる。Levada Centerの専門家は、「プーチン首相が東シベリアを一度訪れただけで、選挙戦の始まりと見ることはできない。プーチン首相は、トゥヴァでの休暇を気に入っている。前回のトゥヴァ訪問でも、同じように、肉体を誇示した写真が取られている。」と指摘する。

現在、プーチン首相が個人的なPR活動に励んでいる理由として指摘されているのは、首相に対する支持率がロシアの政治体制全体を左右するということである。Makarkin氏は、「首相に対する信頼感が失われ、ネガティブなイメージがつきまとうようになってしまえば、ロシアの政治体制全体が揺るいでしまう。」と述べる。

しかし、金融危機が長期化する場合、プーチン首相の支持率にも影響が出る可能性はある。Makarkin氏は、「金融危機が終わる方が早いか、国家資金が尽きる方が早いかは定かでない。今は、準備金があるおかげで、年金を支払い、予算をつけることができる。また、操業停止となった工場に残され、高速道路を封鎖した従業員に公的支援を振り向けることもできる。金融危機が終わる前に準備金が底を尽いてしまったら問題である。」と述べる。

FINAM

2009_08_14L

 

ロシア:エネルギー問題でEUに対する強硬姿勢を崩さず

ロシアのプーチン首相は、エネルギー効率、及び、それに付随する環境問題に関する「エネルギー憲章条約」を批准しないとする正式文書に調印した。

20090810topic.jpgロシアは、1994年12月17日リスボンで、エネルギー憲章条約、並びに、エネルギー憲章議定書に調印した。本条約が発効したのは1998年4月であり、旧ソ連諸国や中央ヨーロッパ、東ヨーロッパ、日本、オーストラリア、EU加盟国を始めとする49カ国が参加した。ロシアは、エネルギー憲章、並びに、エネルギー憲章議定書に調印はしたものの、批准には至らなかった。当時、エネルギー省、及び、トランス・ネフチ、石油関連企業各社、かつてのロシア統一電力システムは、批准に賛成の立場を示していたが、唯一、ガスプロムが難色を示した(今回、批准拒否を政府に提案したのはエネルギー省である)。

エネルギー憲章議定書を批准するとなると、ロシアは、中央アジアのエネルギー企業に対して、欧州向け原油・ガス輸送の供給ルートを開放する必要が出てくる。しかし、それは、ガスプロムの既得権益を損なってしまう。ガスプロムのミレル社長によると、ガスプロムがEU各国に輸出している天然ガスは、年間に1844億立方メートルに及ぶ。

また、エネルギー憲章の批准は、この数年、ガスプロムが強化してきた最終消費者に対するアクセスの独占体制も認められなくなる。そうなると、ガスプロムは、天然ガスの最終価格に対する影響力が欠如した状態で、外国の消費者に天然ガスを販売せざるを得なくなってしまう。

投資会社Gallion Capitalのチーフ・アナリストであるRazuvaev氏は、「エネルギー憲章を批准すれば、ガスプロムやトランス・ネフチが保有するパイプライン網を外国企業に開放することが必要になってくる。また、現在、ロスネフチやガスプロムといった国営企業が開発している戦略的な産地に外国企業が割って入ることも考えられる。」と指摘する。

ロシアがエネルギー憲章の批准を拒否するだろうとの憶測は、以前からあった。メドベージェフ大統領も、1月におけるウクライナとのガス紛争の際にEUが静観の立場を取ったことを引き合いに出し、エネルギー憲章には効力がないと断じていた。同大統領は、「エネルギー憲章に規定されている手続きは有効でなく、インセンティブも有効でない。エネルギー憲章議定書は役に立っていない。」と言及した。

それに伴い、メドベージェフ大統領は、エネルギー憲章条約に代わる新たな案を提出した。代案の公式名称は、「エネルギー分野における国際協力の新たな法的枠組みに対するアプローチ(目的と原則)」であり、今年4月末に、大統領の公式サイトに掲載された。

ロシア側の代案は、第1に、加盟国、及び、エネルギー輸出企業の輪の拡大を提案し、第2に、原料輸送に関わる企業の利益に配慮した形となっている。この他、条約規定に反した場合に適用される迅速な制裁や措置も規定されている。大統領の案の中には、「既存の二国間協定、及び、多国間協定には、国際的なエネルギー関係の分野において、対立を未然に防止し、また、解消するだけの力がないことが明らかとなった。こうした状況は、エネルギー資源国際取引の法的基盤を大きく是正する必要性があるのではないかとの問題を提起している。」と論じられている。

メドベージェフ大統領が提示したこの文書の公式的な目的は、エネルギーの安全な輸送を確保することである。欧州側は、ロシアの提案を協議することに異存はないが、エネルギー憲章を破棄することは考えていないと回答している。

トロイカ・ダイアローグの専門家であるNesterov氏は、「エネルギー憲章は、欧州の利益を擁護するもので、時代にそぐわなくなっている。エネルギー憲章が策定された当時、国際エネルギー市場におけるロシアの地位は低かった。」と指摘する。また、同氏は、「その結果として、ロシアは、自国に不利な条件での生産物分与協定を締結した。欧州は、エネルギー憲章を通じて、ロシアの天然資源を自由に入手し、独占化されているパイプラインシステムに自由にアクセスしたいと考えている。しかし、欧州市場は、ロシア人投資家にとって、閉ざされたままである。」と述べる。

ロシアとトルコが条約に調印したその日に、エネルギー憲章の批准に対する最終的な拒否が伝えられたことは、偶然ではないだろう。これにより、トルコ側は、ロシアのガスパイプライン「サウス・ストリーム」をトルコ領の黒海を経由して敷設することを承認した。トルコと合意に至ったことは、エネルギー企業の資源輸入先の多角化を図ろうとしているEUにとっては打撃である。それがロシアのサウス・ストリーム計画実現のベースとなるためである。Arbat CapitalのアナリストであるGromadin氏は、「サウス・ストリームの敷設によって、欧州市場におけるガスプロムのシェアは広がる。これこそ、欧州が懸念していることである。天然ガスの輸入先を多角化するためのチャンスが狭まってしまう。」と指摘する。

エネルギー憲章の批准を拒否し、トルコ領海を経由するサウス・ストリームの敷設でトルコ側と合意に至ったロシア政府であるが、欧州市場におけるシェア拡大という飽くなき欲望をこれ以上欧州各国に要求する考えはない。投資会社Financial BridgeのアナリストであるAleksandorov氏は、「現在、ロシアは、EUに対して強硬姿勢を取っている。トルコとの合意は、それを強調する形となった。」との見解を示している。

また、Aleksandorov氏は、ロシアがエネルギー憲章の批准を拒否したことによって、主だったエネルギー供給問題に関連する欧州との協力関係が大きく損なわれることはないだろうと考えている。同氏は、「協力関係は、ロシア、EU、その他の国々を代表する企業のレベルに移る可能性がある。また、実際、すでに、そうした動きがある。従って、エネルギー憲章について、最終合意や規定の取りまとめが近い将来になされずとも、それは、さほど重要なことではない。だから、ロシアも強硬姿勢を堅持していられるのだ。また、エネルギー憲章の一部には、欧州の企業からしても満足の行かない規定がある。これも、天然ガス輸送条件に関する協議の際、ロシア側にとっては都合が良い。」と指摘する。

FINAM

2009_08_11L

 

欧州がウクライナに資金供与

20090804topic.jpg欧州復興開発銀行、及び、欧州投資銀行、世界銀行は、ウクライナに対して17億ドルの資金供与を共同で行うことになった。この決定について、欧州委員会のマーク・グレイ広報官は、「今後、経済危機を回避できると保障することはできないが、欧州委員会や国際金融機関の働きによって、そのリスクは大分低減することができただろう。」とコメントした。

ウクライナに追加的経済支援を行う必要性が生じたのは、今年6月、ロシアの天然ガス供給に対するナフトガス(ウクライナの国営エネルギー会社)の支払いが難航して以降である。その際、ウクライナ政府は、脆弱な自国通貨フリヴニャの増刷を余儀なくされた。これに先立ち、メドベージェフ大統領も、ガスプロムのミレル社長も、ナフトガスの支払い能力に対する不信感を露わにしていた。結果として、5月の供給分については、なんとか支払うことができたものの、ウクライナ政府は、新たな資金調達先の確保に奔走することとなった。

最初に支援の手を差し伸べたのは、意外にも、ガスプロムであった。ガスプロムは、ウクライナ領経由でロシア産ガスを欧州に供給する際のトランジット料金を2010年年初分まで前倒しで支払った。その額は22億ドルである。その際、プーチン首相は、「実質的には、22億ドルの貸付と同様だ。」と述べている。しかし、プーチン首相の評価によると、ウクライナが自国の地下ガス貯蔵施設にガスを充填するためには、この2倍、つまり、47-48億ドルが必要である。

多くのアナリストは、ロシア側がこうした対応に出たのは、今年1月に起きたようなガス紛争と同様の新たな対立を避けようとしての試みであったと捉えている。メトロポールのアナリストであるNazarov氏は、「ロシアとしては、新たな対立を望んでいない。1月のガス紛争によって、ガスの供給停止が招くのは不利益でしかないことが明らかになった。それは、経済的のみならず、世評という観点からもそうである。ロシア側の対応は、ウクライナが問題を解決できるようにするためのものであった。」と述べる。

6月末、ウクライナ政府は、欧州委員会に支援を求めた。ナフトガスへの資金供与に関する2回目の協議はブリュッセルで行われ、そこで、ウクライナのティモシェンコ首相は、ロシア産のガスを地下ガス貯蔵施設に充填するのに必要なのは42億ドル相当であるとの数字を明らかにした。しかし、その協議は物別れに終わり、欧州委員会は、ティモシェンコ首相が提示した42億ドルという額に難色を示し、実際の貸付は、17-20億ドルになるとの可能性を示唆していた。

これに対し、ガスプロムのメドベージェフ副社長は、欧州委員会のウクライナに対する資金供与が間に合うかどうかということに疑念を呈している。同副社長は、「国際金融機関が9月以前に資金を供与することは難しいと聞いている。しかし、9月では、手遅れである。我々としては、早期決定を望んでいる。」と述べている。

FINAMの石油・ガスアナリストであるEremin氏も、メドベージェフ副社長の意見に同調している。同氏は、「恐らく、ウクライナは、2008年11月にIMFから供与された160億ドルの貸付から一部をガスの支払いに充当することになるだろう。この貸付の枠内で、33億ドル相当が最近入ってきている。ウクライナ側は、この中の一部をガスの支払いに充てる可能性も考えている。」と述べる。

ナフトガスに対する貸付の条件は、ウクライナのエネルギーセクター改革である。欧州委員会のマーク・グレイ広報官は、「我々は、ガスセクター改革に関するウクライナの誓約を得ている。国際金融機関は、その見返りとして、ウクライナがロシアから輸入しているガスの対価を支払うことができるよう、短期的・中期的に資金援助を行う。」と言及している。

FINAMのEremin氏は、「焦点となっているのは、ナフトガスの再編である。これについては、ウクライナのユーシェンコ大統領も、欧州委員会も、以前より、言及してきた。もっとも、ガス輸送システムを担う国営企業が民営化されることは難しいだろう。しかし、ロシア統一電力システムのように、ナフトガスを分割することは、理論上、可能である。欧州にとっては、分割された企業が相互に連携を図って、ガス輸送効率を上げることができれば利益となる。」と説明する。

ウクライナの政治家セルゲイ・チギプコ氏は、このナフトガスを株式会社として再法人化することが必要との見解を示している。同氏は、「我々が恐れているのは、政府の監督が及ばなくなることである。であれば、50%を国家に残して、残りの25%をロシア側に、後の25%を欧州側に売却すれば良い。そうすれば、透明性のある企業になる。」と述べる。

しかし、現在のところ、ウクライナの指導者の中で、エネルギー業界の再編に取り組んでいる者はいない。従って、欧州委員会が取り交わした今後の改革に関する契約は、将来的なものと見てよいだろう。メトロポールのNazarov氏は、「欧州側は、現在のウクライナ大統領と、まともな協定を結ぶことはできないということを分かっている。つまり、ユーシェンコ大統領が失脚することを見越しているのである。従って、ウクライナとEUが本当に接近していくのは、2010年の選挙以降になるだろう。」と考えている。

ウクライナとEUの接近で青くなるのは、ウクライナのガス輸送システムを監督したいと考えているガスプロムである。それを良く物語っているのが、今年3月末に署名されたウクライナガス輸送システムの近代化に関するEU・ウクライナ共同宣言に対するガスプロム代表団の反応である。この署名には、ウクライナのティモシェンコ首相の他、欧州復興開発銀行、欧州投資銀行、世界銀行、欧州委員会が参加した。

ウクライナとEUとの関係は、互恵的なものである。ウクライナのエネルギーシステム改革を掲げるEU側の狙いは、欧州向けロシア産天然ガスの輸送をコントロールすることにある。政治学者のOreshkin氏は、「欧州としては、ガスの安定供給が必要という他に、ガスの価格交渉ができるよう、独立した供給経路を最大限に確保したいという思惑がある。欧州がウクライナに対する資金援助を惜しまないのはそのためである。」と指摘する。

一方、ウクライナ側にも、EU統合を目指すという意図がある。Oreshkin氏は、「ウクライナは、資源経済によって成り立っているわけではなく、原油価格の上昇に持ちこたえることは難しい。そうした国は、効率性の向上が必要であり、イノベーションや設備投資を図っていくことが不可欠である。」と指摘する。

FINAM

2009_08_10L

 

現代のヒーロー

ロシア企業大手50社の経営陣に支払われた2008年の報酬総額は、30%増の240億ルーブルとなった。そのうち3分の1は、わずか100人が得ている。その100人とはどんな人物なのだろうか。


RBK誌は、これまで3年に渡り、ロシア企業の経営陣報酬額ランキングを作成してきた。金融危機とはいえ、天井知らずの経営陣報酬に歯止めがかかることはなかったが、2008年のランキングには大きな変動があった。2006年には100億ルーブルであった大手50社の報酬総額は、2008年には240億ルーブルに増加した。上位100人の平均報酬は約3倍に増加している。もっとも、2009年には、こうした大盤振る舞いはないかもしれない。多くの企業は、経営陣報酬の大幅カットを決定している。


2008年には、前年、及び、前々年と比較すると、特に目立って多額の報酬を得た人物はいなかった。レフ・ハシス(X5 Retail Group最高経営責任者)やアナトリー・チュバイス(ロスナノ社長で元ロシア統一電力システム会長)の報酬もほどほどであったし、その他にしても、過去最高の記録的な報酬を得た人物はいなかった。これは、2008年のストックオプション行使価額が過去数年と比較して少なかったことに関係しているのかもしれない。また、2008年中に支払われた経営陣報酬のうち、2007年分として計上されているものもある。さらに、金融セクターでは、経営陣報酬の大幅削減を決定した企業も少なくない。MDM銀行、ノモスバンク、ペトロコメルツ銀行では、報酬を2分の1以下に引き下げた。また、賞与やボーナスは、通期決算を参考に決定されるが、業績の良い企業ばかりではない。こうしたことからも、経営陣の報酬は減少している。人材派遣会社ケリーサービスロシアのゴロホワ副社長は、「我々の評価によると、経営陣報酬の固定部分は、平均で25-30%減少している。その一方で、業績に連動したボーナスの部分は、パフォーマンスの低下から、凍結、或いは、まったく廃止されてしまっている。」と現在の状況を説明する。


しかし、トップ20社を見てみると、経営報酬が減額されたのは、ガスプロム銀行(2.4%減)とロシア鉄道(29%)のみである。人材派遣企業Ancorの分析センター所長を務めるダニナ氏は、「市場全体にネガティブな動向が及んでいるわけではない。重要なのは、企業がどのセクターに属しているかということである。中には、従業員給与を上げ、役員報酬の増額を図った企業もある。」と指摘する。経営陣に対する待遇がもっとも良いのは、地域電力・卸売電力の各社であり、報酬が前年比3倍以上に増加したところもある。また、燃料エネルギーセクターの報酬も、依然として高い水準にある。


かつて、経営陣に対して気前の良さを見せていた企業は、金融危機にもかかわらず、さらに太っ腹になった。そうした企業がトップ100社の報酬総額に占める割合は、39%から42%に拡大した。しかし、報酬アップが見られた企業は、それをテクニカル要因によるものと説明している。マグニトゴルスク製鉄は、2007年4月にIPOを実施した後、時価総額に連動する経営陣のボーナスシステムを導入した。そのため、株式発行から1年経った2008年に、追加的支払いが実施された。マグニトゴルスク製鉄の代表は、「これが実施されたのは、金融危機前である。」と強調している。2008年には、ロシア最大手の銀行であるズベルバンク、及び、VTB(外貿銀行)の経営陣報酬も増加した。しかし、これは、経営陣の数が増えたためであり、1人あたりで見た場合、両行の報酬額は、共に、前年比で減少している。ズベルバンクは、最新の四半期決算報告で1人あたりの報酬は減少していることを説明している。銀行マンの報酬については、ジャーナリストはもちろん、株主や銀行従業員の間でも、活発な意見交換がなされているだろう。


人材派遣会社AVANTA Personnnelが2009年春にモスクワとサンクト・ペテルブルグで実施した調査データによると、経営陣や中間管理職との契約を破棄した企業の割合は、そう多くない。経営陣との契約を破棄した企業の割合は6-9%で、中間管理職との契約を破棄したのは20-25%という結果である。AVANTA Personnnelの労働市場調査部部長であるエゴロワ氏は、「これは、雇用者側が厳しい情勢の中で資金余力を維持するために、人員整理を行っているためである。解雇の対象になっているのは、経験の豊かな専門家や経営陣より、一般の従業員である。」と指摘する。つまり、大企業の経営陣は、金融危機を人員整理や給与カットの口実にしている一方、自分の報酬にはほとんど手をつけていないということになる。このため、一般従業員と経営陣との収入格差は開くばかりなのである。




第1位
アレクセイ・ミレル
[ガスプロムCEO]
2億6190万ルーブル/828万ドル
ガスプロムの株価が節目の100ルーブルを割っていても、世界最大のガス会社CEOとしての面目は失われていない。2008年、ガスプロムの売上高は1000億ドルを超え、300億ドルもの利益を計上した。しかし、それでも猶、同社は、公的支援を要請している。これは、ガスプロムが常に収入以上の経費を費やしているためである。また、天然ガス価格の下落が見込まれる秋が目前に迫っていて、財政の圧迫が懸念されることも関係しているだろう。金融危機のピークにあった2008年末、ミレルCEO率いるガスプロムは、従業員給与の物価スライド引き上げを発表した数少ない企業となった。しかし、その後間もなく、同社は本社従業員の10%削減を発表した。ミレルCEOは、自らの年間ボーナス1750万ルーブルについては、以前の水準で据え置きとした。

第4位
ウラジーミル・ストルジャルコフスキー
[ノリリスク・ニッケルCEO]
1億4831万ルーブル/596万ドル
1990年代初頭、KGB中佐の職を辞したウラジーミル・ストルジャルコフスキーは、その後、ビジネスで成功を収めるなどと想像していただろうか。恐らく、そういう期待はなかっただろう。しかし、彼が興した旅行代理店ネヴァは、たった数年で業界有数の企業に成長し、行政改革の一環として、ロシア連邦観光局長官に就任する契機となった。ストルジャルコフスキーは、このポストにいる間、業界にとって2つの大きな改革を行った。ツアーオペレーター業務と旅行会社業務に対する個別のライセンス導入、並びに、ツアーオペレーターのための融資保証制度導入がそれである。こうした働きによって、旅行業界の統制が取れたことは認めざるを得ない。ストルジャルコフスキーがCEOとなったノリリスク・ニッケルの株主をまとめあげることができるか否かはそのうち分かるだろう。もっとも、実は、すでに、株主間の対立の火種は消えかけている。そして、その一方で、経営陣報酬は高くなっている。

第6位
ウラジーミル・ゴルブコフ
[ロスバンク代表取締役]
1億3319万ルーブル/535万ドル
2008年は、国内有数の金融機関であるロスバンクを率いるウラジーミル・ゴルブコフにとって、上出来の年であった。多くの銀行が報酬を削減する中、ゴルブコフの報酬は、2倍近くに跳ね上がった。ロスバンクは、金融危機の影響をほぼ免れることができた。同行の不良債権比率は、法人・個人共に、非常に低い水準にある。もっとも、つい先日まで、ロスバンクは、年間30-40%の成長という壮大な計画を謳っていた。しかし、現在では、市場と同等の成長を目指している。従って、2008年に支払われた報酬は、数年先までの報酬の前渡しとも取れる。

第8位
ミハイル・シャモリン
[モバイル・テレシステムズ社長]
1億2386万ルーブル/498万ドル
ロシアの大学2校を卒業し、ウォートン・スクールでMBAを取得したミハイル・シャモリンは、CIS諸国の携帯通信市場において、首位の座(加入者数)を保持し、ロシアで2番目の携帯電話小売業者を取得することに成功した。しかし、今後は、競合企業であるヴィムペル・コミュニケーションズの鼻をあかすために、コムスター・ユナイテッド・テレシステムズを買収するか、統合するかして、ユニバーサルな通信会社を創設するというさらに難しい課題が待ち受けている。しかも、その上でなおかつ、モバイル・テレシステムズには、収益性の維持が求められている。親会社である持株会社システマの傘下企業の中で、唯一のドル箱がモバイル・テレシステムズであるからである。

第10位
レフ・ハシス
[X5 Retail Group最高経営責任者]
1億1678万ルーブル/469万ドル
2007年には、報酬額トップであったレフ・ハシスは、現在、厳しい状況に置かれている。金融危機によって、X5 Retail Groupの企業価値は大きく下がり、彼個人の収入も落ちた。また、事業収益の伸びも減速している。しかし、ハシスは、意気消沈するどころか、オプションを行使して保有するX5 Retail Group株の積み増しを図った。きっと、彼は、事業全体、そして、商取引全般、引いては、ロシアの明るい未来を信じているのだろう。長期的展望に立つのも良い。少なくとも、励みにはなる。

第21位
イーゴリ・キム
[MDM銀行代表取締役]
7529万ルーブル/302万ドル
カザフスタン出身のイーゴリ・キムは、銀行家になろうと思っていたわけではない。彼が興味を持っていたのは天文学の方であったのだが、そうした星回りとはならなかった。1997年、イーゴリ・キムは、パートナーと共に、ノヴォシビルスクの小規模行シブアカデム銀行の共同オーナーとなった。それから10年のうちに、このシブアカデム銀行を前身とした国内有数の金融機関URSA銀行が設立されたのである。ノヴォリビルスクでは、ズベルバンクを凌ぐ強力な基盤を築いたURSA銀行であるが、イーゴリ・キムは、勢力拡大のため、モスクワ進出を目標に掲げた。モスクワ進出を決定づけたのは、キムのパートナーであり、MDM銀行の筆頭株主でもあるセルゲイ・ポポフである。URSA銀行とMDM銀行は統合する見通しであり、そうなると、2009年秋にも、国内トップ10に入る金融機関が誕生することになる。

第13位
レオニド・ミヘルソン
[ノヴァテク代表取締役]
9205万ルーブル/370万ドル
もし、ノヴァテクをロシア最大の独立系天然ガス採掘企業だと考えているなら、それは間違いである。最近、ノヴァテクは、ガスプロムとの関係を深めており、ガスプロムも、同社株式を保有している。2009年春には、エネルギー業界に長年君臨していることで有名なゲンナジー・チムチェンコも同社株主となった。多大な影響力のあるガスプロムとチムチェンコが資本参加したことは、ノヴァテクにとって有利である。これで、もう、パイプラインからの切り離しや採算性の高い事業案件からの締め出しを心配することなく、安心して、株主の利益のために働くことができるだろう。

第16位
アナトリー・ガヴリレンコ
[運用会社リーダー社長]
8682万ルーブル/349万ドル
ガスプロムと正式なつながりがなくとも、ガスプロムを盾にして稼ぐことはできる。運用会社リーダーは、最近、ロシア銀行の傘下に入った。ロシア銀行のオーナーは、プーチン首相と旧知の仲であるユーリ・コヴァリチュクである。運用会社リーダーの仕事には、ガスプロム、並びに、ユーリ・コヴァリチュクに関係する資産の運用管理も含まれている。もしかすると、近い将来には、セヴェルスタリやスルグトネフチェガスの取締役会で、アナトリー・ガヴリレンコの姿を見ることができるかもしれない。セヴェルスタリも、スルグトネフチェガスも、マスコミを始め、各分野で、ロシア銀行と積極的な関係強化を図っているためである。

第17位
アンドレイ・ボロジン
[モスクワ銀行頭取]
8377万ルーブル/337万ドル
アンドレイ・ボロジンは、官僚でも、銀行家でもない。ボロジンは、業界随一の忠誠心あふれるチームを組織した。モスクワ銀行経営陣は、5年以上、同行の経営に携わっている者が多数を占める。それは、取締役も同様である。アンドレイ・ボロジン自身も、レフ・アラルエフ副会長と共に、設立当初からモスクワ銀行を率いてきた。報酬年額が比較的低いボロジンだが、同行資本の自己保有分は2倍以上に拡大してのけている。レフ・アラルエフと共同で同行のブロック株を保有している今となっては、ボロジンが国内有数の大手銀行をほぼ手中にする日もそう遠くないだろう。90年代のオリガルヒを彷彿とさせるスピード出世である。

第19位
ゲルマン・グレフ
[ズベルバンク総裁]
8317万ルーブル/334万ドル
今回、再確認することができたのは、民間への天下りがどれだけ魅力的かということである。1年前には、ロシア連邦交通省の官僚からロシア鉄道の社長に就任したウラジーミル・ヤクーニンの羽振りの良さを取り上げたが、経済発展貿易相を務めたゲルマン・グレフも、そうした栄誉に浴している。オムスク出身のゲルマン・グレフは、世界でも有数の銀行を統率することになるとは夢にも思っていなかっただろう。しかし、縁あってズベルバンク総裁の職に就いた彼は、最初の1年間で、官僚時代の年収(2006年の年収は180万ルーブル)をはるかに凌ぐ約350万ドルを手に入れた。



表1:経営陣に対する待遇がもっとも良い企業 (単位:100万ルーブル)

順位 企業名 08'経営陣
報酬総額
対前年
変化率%
08'人件費 経営陣報酬/人件費%
1 ノヴァテク 817.4 102.76 1593.6 51.3
2 エヴラズ・グループ 2086.7 44012 5613.5 37.17
3 ガスプロムネフチ 691.6 104.07 2213.8 31.24
4 ロスバンク 556.4 82.94 1810.1 30.74
5 システマ 601.5 1.34 2084.7 28.85
6 サンクト・ペテルブルグ銀行 472.1 109.94 1686.1 28
7 第2卸売電力 405.9 202.96 1905.7 21.3
8 ガスプロムバンク 1741 -2.38 8728.8 19.94
9 モスクワ銀行 874.5 82.6 5006.3 17.47
10 ルクオイル 838.9 26.81 5398.6 15.54
11 URSA銀行 441 36.09 2953.6 14.93
12 ガスプロム 994.1 25.71 6873.5 14.46
13 プロムスヴャジバンク 885.4 42.38 6196.1 14.29
14 モバイル・テレシステムズ 1180.6 - 12837.7 9.2
15 ノリリスク・ニッケル 1352.1 124.92 21310.6 6.26
16 マグニトゴルスク製鉄 504.6 74.77 8180.4 6.17
17 VTB(外貿銀行) 533.9 11.02 11126.3 4.8
18 アルロサ 509.9 84.04 18095.7 2.82
19 ズベルバンク 933.6 4.65 113400.1 0.82
20 ロシア鉄道 606.3 -29.29 303957.8 0.2


表2:2008年に報酬経費が増加した企業トップ20 (単位:100万ルーブル)

順位 企業名 08'報酬総額 07'報酬総額 変化率%
1 ファームスタンダード 36.3 2.2 1549.72
2 コムスター・ユナイテッド・テレシステムズ 38.2 6.3 510.79
3 ヴォルガ地域電力 199.7 50.2 297.86
4 第6卸売電力 249.6 69.3 260.01
5 ウィム・ビル・ダン食品 20.7 6.1 237.44
6 ソレース 203.3 64.7 214.39
7 水力卸売電力 69.7 22.3 213.35
8 第2卸売電力 405.9 134 202.96
9 アフトワズ 118.6 41.6 184.93
10 マグニト 24.1 9.5 153.86
11 第1卸売電力 205.2 91 125.53
12 ノリリスク・ニッケル 1352.1 601.1 124.92
13 オルグレスバンク 164.8 74.6 120.88
14 第4地域電力 101.1 46.2 119.07
15 ルネッサンス・キャピタル 44.8 21.1 112.28
16 サンクト・ペテルブルグ銀行 472.1 224.9 109.94
17 ガスプロムネフチ 691.6 338.9 104.07
18 ノヴァテク 817.5 403.2 102.76
19 第4卸売電力 196.8 100.4 96.08
20 アルロサ 509.9 277 84.04


表3:2008年に報酬経費が減少した企業トップ20 (単位:100万ドル)

順位 企業名 08'報酬総額 07'報酬総額 変化率%
1 LSRグループ 12.8 136.5 -90.6
2 ペトロコメルツ銀行 125.3 364.6 -65.62
3 ノモスバンク 99.3 270 -63.21
4 統一モスクワ電力網 16.2 39.2 -58.79
5 OMZ 12.4 27.5 -54.79
6 MDM銀行 395.9 804.5 -50.79
7 トランスクレジットバンク 209.3 384.7 -45.6
8 モスクワ・シティ・テレフォン 53.4 97.1 -44.94
9 第3卸売電力 124.6 223.8 -44.32
10 ルスネフチ 7.7 13.5 -43.44
11 Evrofinance Mosnarbank 92.2 162.1 -43.15
12 復興銀行 242.2 382.6 -36.7
13 国際産業銀行(メジュプロムバンク) 101.2 152.5 -33.62
14 ロシア・スタンダード銀行 269.6 384.4 -29.69
15 ロシア鉄道 606.3 857.4 -29.29
16 極東海洋汽船会社 80.5 109 -26.14
17 クズバスエネルゴ 61 82.1 -25.72
18 ノヴォロシースク海上汽船 50.9 67.3 -24.41
19 ドロゴブジ 62.4 82 -23.83
20 ウラル通信情報 89.6 116.3 -22.99


表4:ロシア経営者の高額報酬トップ100 (単位:100万)

順位 前年順位 名前 職責 報酬
(Rub)
報酬
($)
1 14 アレクセイ・ミレル ガスプロムCEO 206.19 8.28
2 22 オリガ・パヴロワ ガスプロム取締役 155.6 6.25
3 24 アンドレイ・クルグロフ ガスプロム副社長 149.57 6.01
4 - ウラジーミル・ストルジャルコフスキー ノリリスク・ニッケル最高経営責任者 148.31 5.96
5 16 アンドレイ・アキモフ ガスプロムバンク代表取締役 147.29 5.92
6 - ウラジーミル・ゴルブコフ ロスバンク代表取締役 133.19 5.35
7 61 イリヤ・エニセーエフ ガスプロムバンク副頭取 125.75 5.05
8 - ミハイル・シャモリン モバイル・テレシステムズCEO 123.86 4.98
9 29 キリル・セレズネフ ガスプロム取締役 122.75 4.93
10 1 レフ・ハシス X5 Retail Group最高経営責任者 116.78 4.69
11 39 エレーナ・ワシーリエヴナ ガスプロム副社長 108.11 4.34
12 41 ワレーリー・ゴルベフ ガスプロム取締役 95357 3.84
13 - レオニド・ミヘルソン ノヴァテク代表取締役 92.05 3.7
14 - ニコライ・ドゥビク ガスプロム取締役 88.65 3.56
15 70 ワシーリー・ポデュク ガスプロム取締役 88.06 3.54
16 40 アナトリー・ガヴリレンコ 運用会社リーダー社長 86.82 3.49
17 - アンドレイ・ボロジン モスクワ銀行頭取 83.77 3.37
18 63 アレクサンドル・デュコフ ガスプロムネフチ代表取締役社長 83.51 3.35
19 - ゲルマン・グレフ ズベルバンク総裁 831.17 3.34
20 65 ミハイル・セレダ ガスプロム副社長 77.46 3.11
21 - イーゴリ・キム MDM銀行代表取締役 75.29 3.02
22 64 ウラジーミル・エフトゥシェンコ システマ代表取締役 74.4 2.99
23 - マーク・アントン・ジェトヴェイ ノヴァテク副社長 73.47 2.95
24 - パヴェル・ベリク モバイル・テレシステムズ取締役 72.02 2.89
25 - アレクサンドル・バガティリョフ モバイル・テレシステムズ取締役 72.02 2.89
26 - アンドレイ・ドゥボフスコフ モバイル・テレシステムズ取締役 72.02 2.89
27 - ルスラン・イブラギモフ モバイル・テレシステムズ取締役 72.02 2.89
28 - アレクセイ・コルニャ モバイル・テレシステムズ取締役 72.02 2.89
29 - セルゲイ・ニコノフ モバイル・テレシステムズ取締役 72.02 2.89
30 - アレクサンドル・ポポフスキー モバイル・テレシステムズ取締役 72.02 2.89
31 - オレグ・ラスポポフ モバイル・テレシステムズ取締役 72.02 2.89
32 - アンドレイ・テレベニン モバイル・テレシステムズ取締役 72.02 2.89
33 - ミハエル・ヘッケル モバイル・テレシステムズ取締役 72.02 2.89
34 33 ヴァギト・アレクペロフ ルクオイル社長 70.81 2.84
35 - ウラジーミル・バスコフ ノヴァテク副社長 69.97 2.81
36 - ヴィクトル・ギリャ ノヴァテク副社長 69.97 2.81
37 - タチヤナ・クズニェツォワ ノヴァテク副社長 69.97 2.81
38 - ミハイル・ポポフ ノヴァテク第1副社長 69.97 2.81
39 - セルゲイ・プロトセニャ ノヴァテク取締役 69.97 2.81
40 - ウラジーミル・スミルノフ ノヴァテク副社長 69.97 2.81
41 - ニコライ・チタレンコ ノヴァテク副社長 69.97 2.81
42 - アレクサンドル・フリドマン ノヴァテク副社長 69.97 2.81
43 - キリル・ヤノフスキー ノヴァテク取締役 69.97 2.81
44 - マクシム・ソコフ ノリリスク・ニッケル取締役 69.37 2.79
45 - ウラジスラフ・ソロヴィエフ ノリリスク・ニッケル取締役 69.37 2.79
46 - キリル・パリノフ ノリリスク・ニッケル取締役 69.37 2.74
47 - ドミトリー・コストエフ ノリリスク・ニッケル取締役 68.16 2.71
48 - オレグ・ピヴォヴァルチュク ノリリスク・ニッケル取締役 67.5 2.71
49 - セルゲイ・バテヒン ノリリスク・ニッケル取締役 67.5 2.71
50 - セルゲイ・イワノフ ガスプロムバンク取締役 67.47 2.69
51 42 ファリド・カンツェロフ ガスプロムバンク副頭取 66.94 2.69
52 31 アレクセイ・マトヴェエフ ガスプロムバンク副頭取 66.94 2.69
53 - ワレーリー・マトヴィエンコ ノリリスク・ニッケル取締役 66.94 2.69
54 - エヴゲーニー・ポタノフ ノリリスク・ニッケル取締役 66.9 2.69
55 45 ヴィクトル・スプロギス ノリリスク・ニッケル取締役 66.9 2.69
56 44 ヴィクトル・トメンコ ノリリスク・ニッケル取締役 66.9 2.69
57 - ドミトリー・アクリニン モスクワ銀行取締役 65.93 2.65
58 - エレーナ・ヴォルコワ モスクワ銀行取締役 65.93 2.65
59 - アンドレイ・ゲルマノフ モスクワ銀行取締役 65.93 2.65
60 - パヴェル・ゴルバツェヴィチ モスクワ銀行取締役 65.93 2.65
61 - リュドミラ・ダヴィドワ モスクワ銀行取締役 65.93 2.65
62 - セルゲイ・エルモラエフ モスクワ銀行取締役 65.93 2.65
63 - アンドレイ・ラプコ モスクワ銀行取締役 65.93 2.65
64 - ユーリー・マクストフ モスクワ銀行取締役 65.93 2.65
65 - リュドミラ・マルキナ モスクワ銀行取締役 65.93 2.65
66 - イリーナ・ニキテンコ モスクワ銀行取締役 65.93 2.65
67 - アレクセイ・シトニコフ モスクワ銀行取締役 65.93 2.65
68 - ウラジーミル・フョードロフ モスクワ銀行取締役 65.93 2.65
69 59 ヴィクトル・コマノフ ガスプロムバンク取締役 65.72 2.64
70 58 ニコライ・コレノフ ガスプロムバンク副頭取 65.72 2.64
71 57 ヴィクトル・コリトフ ガスプロムバンク副頭取 65.72 2.64
72 56 スヴェトラナ・マリュセワ ガスプロムバンク副頭取 65.72 2.64
73 55 アレクサンドル・ムラノフ ガスプロムバンク副頭取 65.72 2.64
74 54 アレクセイ・オボジンツェフ ガスプロムバンク副頭取 65.72 2.64
75 53 アレクサンドル・ソボル ガスプロムバンク副頭取 65.72 2.64
76 52 パヴェル・ウトキン ガスプロムバンク副頭取 65.72 2.64
77 51 アレクサンドル・シミット ガスプロムバンク取締役 65.72 2.64
78 23 アレクサンドル・アナネンコフ ガスプロムバンク副頭取 65.72 2.64
79 - サロネン・イルカ・セッポ ズベルバンク副総裁 65.51 2.63
80 - アレクサンドル・バザロフ ズベルバンク取締役 65.35 2.63
81 - デニス・ブグロフ ズベルバンク取締役 65.35 2.63
82 98 アレクサンドル・ゴヴォルノフ ズベルバンク副総裁 65.35 2.63
83 97 アンドレイ・ゴリコフ ズベルバンク取締役 65.35 2.63
84 95 ベラ・ズラトキス ズベルバンク副総裁 65.35 2.63
85 - オリガ・カノヴィチ ズベルバンク取締役 65.35 2.63
86 - アントン・カラムジン ズベルバンク副総裁 65.35 2.63
87 94 エヴゲーニー・コロレフ ズベルバンク副総裁 65.35 2.63
88 - スタニスラフ・クズネツォフ ズベルバンク取締役 65.35 2.63
89 - アレクサンドル・モロゾフ ズベルバンク取締役 65.35 2.63
90 - ヴィクトル・オルロフスキー ズベルバンク取締役 65.35 2.63
91 73 アレクサンドル・ゴンチャルク システマ第1副社長 63.89 2.57
92 72 ドミトリー・ズボフ システマ副社長 63.89 2.57
93 - アレクサンドル・レフコフスキー プロムスヴャジバンク頭取 53.05 2.13
94 - アレクサンドラ・ヴォルチェンコ プロムスヴャジバンク取締役 38.37 1.54
95 - アルチョム・コンスタンジャン プロムスヴャジバンク取締役 38.37 1.54
96 - タチヤナ・クズミナ プロムスヴャジバンク取締役 38.37 1.54
97 - イリーナ・モロゾワ プロムスヴャジバンク取締役 38.37 1.54
98 - ナターリヤ・ネヴェルケヴィチ プロムスヴャジバンク取締役 38.37 1.54
99 - ドミトリー・セニコフ プロムスヴャジバンク取締役 38.37 1.54
100 - アレクセイ・フェドトキン プロムスヴャジバンク取締役 38.37 1.54


出典:RBC誌7月号

ガスプロム:新たなガスパイプラインの建設着工

20090803topic.jpgガスプロムは、サハリン-ハバロフスク-ウラジオストクを結ぶガスパイプラインの建設を開始した。この複合パイプライン第1ステージの全長は、1350キロメートルであり、年間輸送量は60億立方メートルと見込まれている。また、複合パイプラインの総延長は約1800キロメートルとなる。従って、将来的には、年間300億立方メートル相当の輸送が可能になる見通しである。この天然ガスパイプラインの建設には、2009年に500億ルーブルが投入される。2010年、及び、2011年の投資計画については、まだ明らかにされていないが、投資額は、全体で1500億ル-ブル相当となる見込みである。

ガスパイプラインの建設は、ロシア政府の東方ガスプログラムにおける中心的事業である。同プログラムによると、ガスプロムは、極東における新たな天然ガスの拠点設立を目論んでいる。また、ガスプロムのデータによると、同社は、2020年までに、極東地域で1500億立方メートル相当のガスを生産する予定を立てている。ガスプロム広報は、「この数字は、ロシアが毎年遠方諸国に輸出している天然ガスの量に匹敵する。ロシアの極東地域における天然ガスの生産には、然るべき輸送システムを確保する必要がある。」としている。

ガスプロムにしても、ロシア政府しても、サハリン-ハバロフスク-ウラジオストクを結ぶガスパイプライン、及び、東方ガスプログラムは非常に重要である。ガスプロムがその他事業の資金調達を縮小して、同ガスパイプライン建設への投資拡大を決定したことも、その重要性を物語っているだろう。ガスプロムのアナネンコフ副社長は、投資計画の縮小によって浮いた1370億ルーブルのうち、300億ルーブルをサハリン-ハバロフスク-ウラジオストクのガスパイプライン建設に振り向けるとしている。また、ロシアエネルギー省のシマトコ大臣は、ガスパイプライン建設のための資金調達先を模索している。それは、ガスプロムのガス輸送システムを利用したガス輸送料金の引き上げである。

VTB CapitalのアナリストであるGrizan氏は、ガスパイプライン建設に必要な資金調達のための料金引き上げ計画と東シベリア-太平洋における原油輸送に対する単一料金の導入計画とを比較している。同氏は、「これでは、ガスセクターの各企業がガスパイプライン建設の経済的負担を平等に負うことになるだろう。しかし、ガスプロムが保有する統一ガス供給システムを利用したガス輸送料金の引き上げを図る等の対案もある。」と述べる。もっとも、Grizan氏によると、シマトコ・エネルギー相の構想を実現するには、法的基盤が必要であるため、それが2009-2010年に実現することはないとみられる。

コンサルティング会社2K Audit-Business consultingの専門家であるKlyuev氏は、何か大きなことがない限り、パイプライン建設事業の期間が延期されることはないだろうとの見解を示している。同氏は、「予定を大分ずれ込んでいる東シベリア・太平洋間の石油パイプラインの建設着工を政府が考えていないことは明らかである。また、当初の計画通りに事業を進めることができれば、工費の増加も抑えられる。従って、ガスパイプライン敷設の予算が大きく変わることはないだろう。」と述べる。天然ガスパイプライン第1ステージは、2011年第3四半期の稼動開始が見込まれている。2012年には、ウラジオストクでアジア太平洋経済協力機構(APEC)のサミットが開催されるため、それまでに沿海地方のガス化を達成することが必要であるためである。

サハリン-ハバロフスク-ウラジオストクのガスパイプラインを建設する目的の1つは、極東地域におけるガス需要を充足するということである。プーチン首相は、ガス輸送システムの初溶接を記念して開かれた式典で、極東地域へのガス供給について言及した。同首相は、「東シベリア、及び、極東のガスが優先するのは、何よりも、国内市場である。それは、大規模なエネルギー企業や天然ガス加工施設の建設、ハイテク産業の発展の基盤になるだろう。」と述べた。

ガスプロム子会社のメジュレギオンガスは、プーチン首相の発言を裏付けるように、具体的な数字の発表もしている。メジュレギオンガスのデータによると、今後5年間で、ロシア東部のガス需要は4倍に膨らむ見通しである。同地域のガス需要は、2010年までに50億立方メートル、2015年までには200億立方メートルに達するとされている。

投資会社Kapital Investment GroupのアナリストであるGromadin氏は、メジュレギオンガスが示した数字について、まだガス化が進んでいない極東地域の実態に即していると考えている。同氏は、「極東は、ガスが豊富にあるにもかかわらず、利用されているのは石炭や灯油である。国内におけるガスの供給は、ガスプロムにとっても、優先課題である。東シベリア・極東といった広大な地域の開発により、ガスは、ロシアの消費者に行き渡ることになる。現時点では、まだ開発されていない同地域は、地政学的にも、非常に重要である。」と述べる。

一方、FINAMの石油ガス・アナリストであるEremin氏は、プーチン首相の発言を政治的パフォーマンスであると捉えている。同氏は、「プーチン首相が口にしたのは、ガスプロムの社会的責任の部分である。そうであるならば、ガスプロムは、何よりも国民に目を向けなければならない。外国はその後だ。しかし、だからと言って、ガスプロムの戦略が国内重視路線に改まることはないだろう。」と指摘する。

2K Audit-Business consultingのKlyuev氏は、金融危機以前には、極東地域にエネルギー生産施設を配備することが予定されていたと述べる。同氏は、「新たな経済情勢の中で、今後どうなるのか、今のところ見通しは立っていないが、地域の発展のためにはインフラ整備が不可欠である。」と指摘する。

サハリン-ハバロフスク-ウラジオストクのガスパイプライン建設、及び、東方ガスプロジェクトには、極東地域のガス化という目的以外に、アジアの天然ガス輸出という目的がある。この点では、専門家の意見も一致している。アジア・太平洋地域の市場におけるガスプロムの進出状況は、まだ限定的であり、日本・韓国・インド・中国に液化天然ガスを若干供給しているのみである。輸出窓口会社ガスプロム・エクスポートのメドベージェフ社長は、液化天然ガスの輸出量について、2009年末には500万トン、2010年には960万トンになるものと評価している。

アルファ・バンクのアナリストは、サハリン-ウラジオストク間パイプラインの一部は、チャヤンディン・ガス田、コヴィクタ・ガス田といった大規模産地と中国市場。韓国市場を結ぶ極東におけるガスパイプライン事業にも利用されるだろうと考えている。

投資会社Kapital Investment GroupのGromadin氏は、アジア・太平洋地域について、一方では有望としながらも、もう一方では、ガスの販売先として難しいところもあると指摘している。同氏は、「ガスプロムとしては、今後、相互に受諾可能なガス料金の価格決定方式の取り決めが必要であるが、これは、そう簡単にはいかないだろう。例えば、中国のエネルギーバランスを見てみると、石炭の比率が高い。従って、中国人は、恐らく、石炭価格を基にした天然ガス価格を求めてくるだろう。しかし、それは、ガスプロムにとって望ましいことではない。ガスプロムにとって、中国市場の価格的魅力は損なわれてしまう。しかし、中国でも、ガスに対する需要は伸びていくだろう。」と述べる。

2K Audit-Business consultingのKlyuev氏は、「ロシアは、アジア・太平洋地域の各国との関係強化を図るべき時に来ている。アジア・太平洋地域は、非常に大きな販売市場である。ロシアの東部には、大規模なガス田があるにもかかわらず、現在、アジア・太平洋地域におけるロシアの進出度は低い。サハリンの大陸棚を勘案すると、将来的に、サハリン-ハバロフスク-ウラジオストクのガスパイプラインは、ガスプロムにとって、主要な輸出幹線になる可能性がある。」としている。

FINAM

2009_08_05L

 
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