ロシア経済トピックス: 2009年12月
2009年の総括:世界最大の原油輸出国になったロシア
2009年は、ロシアにとって原油の年であったと言ってよいだろう。原油市場は、世界の経済動向の指標であった。
第1四半期に落ち込んだ石油関連企業の決算が第2四半期から上向きに転じたことも、それを物語っている。2009年第3四半期におけるガスプロム・ネフチの売上高は、前期比37%増の70億ドルとなった(前期は52億6900万ドル)。しかし、前年同期と比較すると、34.5%下回る結果である(前年同期は103億ドル)。2009年第3四半期におけるロスネフチの売上高は、前期比19.2%増の130億4800万ドルとなった。一方、1-9月の売上高は前年同期比44.6%減の322億ドルに止まった。
【ヴァンコール油田の稼動開始が寄与】
ロシア経済は、原油市場に大きく依存しているが、その回復は、石油関連企業が復調を示した後であった。第2四半期の時点ですでに、ロシアはサウジアラビアを超える世界最大の原油輸出国となった。サウジアラビアの原油輸出量が日量700万バレルであるのに対し、ロシア産原油の輸出量は日量740万バレルに達した。また、ロシアの原油生産量は、いち早く金融危機以前の水準に戻したばかりか、それを上回った。これは、主に、ロスネフチがヴァンコール油田を稼動開始したことによるものである(2009年における同油田の原油生産量は300万トン)。2009年通期としてのロシアの原油生産量は4億9300万トンとなった(2008年の原油生産量は4億9000万トンであった)。
また、東シベリア-太平洋パイプラインの第1区画が2009年12月末に稼動したことも、ロシアの石油関連企業にとって、重要な出来事である。中国までパイプラインを延ばす計画は10年前からあったのだが、今になってようやく実現に至った。パイプラインの輸送能力は年間3000万トンであり、今後年間8000万トンまで拡大する予定である。パイプラインを早急に稼動させるため、ロシア政府は、同パイプラインの資源基盤となる東シベリアの油田22箇所に対して免税措置を取った。
この他、2009年には、ロシアの石油関連企業が国外の油田開発という新たな事業分野へ進出することがより明確になった。以前から、ロシア企業は、国外事業へ参入する意向を示していたが、今では、合意文書を締結するところに来ている。数社は、国外油田の開発に関する合意を取り付けた。まず、ルクオイルは、ようやく(12年越し!)、イラク政府からクルナ第2鉱区を開発する許可を得た。ガスプロム・ネフチも、イラクの油田開発事業を落札し、バドラ油田開発の一部権益を獲得した。また、今年は、ロシア石油企業コンソーシアム(ルクオイル、ガスプロム・ネフチ、スルグトネフチェガス、TNK-BP、ロスネフチが属する)とベネズエラ国営石油企業「ペトロレオス・デ・ベネズエラ」、及び、ベネズエラ政府がフニン第6鉱区の開発に関する合意を締結した。
一方、ロシア企業は、地質調査に対する投資額を20%縮小した。これは、今後、ロシアの原油生産量に影響してくるかもしれない。探査投資が適切に行われないことにより、原油需要が増加した際に、生産量が需要に追いつかず、国際原油市場におけるロシアの地位が損なわれてしまうという可能性もある。
【ガスをめぐる対立】
2009年は、例のロシアとウクライナのガスをめぐる紛争から始まった。ウクライナ側は、ガスプロムとの契約見直しを主張し、これまでの条件でガスを購入することを拒否した。ロシア側は、対応措置として、ガスパイプラインのバルブを閉めた。しかし、これによって、もっとも大きな被害を被ったのは、ロシアからのガスが2週間途絶えたヨーロッパであった。中でも、地下ガス貯蔵施設から不足分を補給することができないバルカン諸国は、深刻なガス不足に陥った。ガスプロムのミレル社長によると、このガス紛争によって、ガスプロムは20億ドル相当の減益となった。
この1年、ガスというカードは、ロシアとウクライナ双方の切り札であった。ガスプロムは、ウクライナに対して、2009年におけるガスの未収分に対する違約金を支払うよう求めたが、プーチン首相は、ウクライナのティモシェンコ首相と会見し、違約金の支払いを免除した(これを受け、欧州各国も、違約金の免除を要請。)また、ウクライナの政治家は、2009年初頭に、ガスプロムとナフトガスが締結したガス契約の非合理性について度々協議を重ねた。しかし、ガス未収分に対する違約金、ウクライナ向けのガス供給量に関する議論の末、ロシアとウクライナは、2010年におけるガス供給条件で合意を得た。従って、来たる新年の休日に、ロシアとウクライナの関係が緊迫することは恐らくないだろう。
しかし、2009年にガスプロムが対立したのは、ウクライナばかりではない。春には、トルクメニスタンからロシアへガスを供給している「中央アジア・中央部」地区パイプラインで爆発事故が起きた。ロシアとトルクメニスタンは互いに相手を非難し、ロシアへのガス供給が止まった。その後、まず、ガスプロムとトルクメンガスの企業間で協議が行われ、その後、政府レベルでの協議に移り、長期を要した交渉の結果、双方は、12月末に、ガスの供給を再開することで合意に至った。
トルクメニスタンとのやりとりでは、ガスプロムが優位に立った。ガス需要が低い時期であったことから、ガスプロムにとって、トルクメニスタン産ガスの必要性は薄かったのである。また、ガスプロムに、余計なガスを市場価格で購入する考えはなかった。トルクメニスタン産ガスの価格に関するメディアの議論は、2009年を通じて続いた。ロシアが市場価格を大きく上回る350ドル/1000立方メートルでトルクメニスタンからガスを買っているという説まで出された。しかし、ガスプロムは、トルクメニスタンと合意に達した後、ガス価格は欧州の平均価格と同等であるとして、そうした説を否定した。
トルクメニスタンと合意を得たことで、ガスプロムは、二重の勝利を果たした。つまり、これで、欧州の消費者をめぐってロシアのパイプライン「サウス・ストリーム」と競合する「ナブッコ・パイプライン」にトルクメニスタン産ガスが供給される心配はない。トルクメニスタンのガスがナブッコに供給されるようなことになれば、おのずと、そちらの追い風になってしまう。
【ガスプロムの年】
2010年は、ロシアにとって、天然ガスの年、或いは、より正確に言うと、ガスプロムの年になるだろう。明年には、「ノース・ストリーム」と「サウス・ストリーム」というガスプロムにとって最重要の2事業が立ち上げられる。もっとも、上記パイプラインを計画通りに稼動させるため、ロシア政府、なかんずくプーチン首相は、手を尽くしてきた。その成果は、後少しのところまで来ている。この半年間で、ロシアは、ガスプロムのパイプラインが通るほぼ全ての国々と政府協定を締結した。
今秋、プーチン首相は、ヤマロ・ネネツ自治管区のサレハルドで、ヤマル半島の発展に関する会合を開き、世界的な大手エネルギー企業の幹部に対して、同地域の資源基盤、及び、開発の可能性について説明した。まだヤマル半島の開発に参加する意向を示している西側の企業は少ない。外国企業がもっとも懸念しているのは、政治リスクである。
この1年は、恐らくかつてないほど、ガスプロムが批判を受けた年だった。プーチン首相の口からも、ガスプロム批判が出た。プーチン首相は、秋に開催された会合「ロシアの誘致」の中で、「他国と同様、ロシアでも、経済の各分野で、過度の独占状態による弊害が見られる。ガス分野も他の分野と同じようなものだ。特定のセクターにおける過剰な管理や非効率的な経営が市場に必要な柔軟性を損ねている。こうしたことは、利権を振りかざす独占企業のせいである。」と述べている。しかし、一方で、プーチン首相は、ガスプロムを採掘を行う企業と輸送を行う企業に分割する意図はないと言及している。専門家は、ガスプロムに対する非難について、ミレル社長とセチン副首相の個人的な不和が原因だとしている。セチン副首相は、ミレル社長に対して、厳しい物言いをすることで通っている。例えば、中国訪問の際、セチン副首相は、中国向けのガス供給協定の調印時期に関する質問に対して、お昼まで寝ているガスプロムのミレル社長のせいで、協定への調印が遅滞しているのだと発言した。
ロシアのエネルギーセクターには、メドベージェフ大統領も、積極的に関与している。その一例として、トルクメニスタンとの契約締結は、大統領の個人的な功績と評価されている。また、メドベージェフ大統領は、EUのために、エネルギー資源の消費者だけではなく、供給側の利益をも勘案した新たなエネルギー憲章の草案を提出した(EUに対する最大の原油・ガス輸出国はロシア)。しかし、EUは、ロシアの要望を勘案するとしつつも、結局のところ、ロシア側が提案したエネルギー憲章を退けた。
今年、ロシア政府は、エネルギー戦略を定め、2030年までのロシアエネルギーセクターの展望を規定した。それによると、エネルギーセクターの主要トレンドとして、国内市場の発展が見込まれている。もっとも、エネルギー省は、エネルギーセクターにおける各分野の発展戦略が策定されるに伴い、エネルギー戦略2030が見直される可能性はあるとしている。
FINAM
2009_12_28L
ロシアファンドへの外資流入:株価上昇の弾みとなるか?
この4週間で、ロシアを対象としたファンドには3億8800万ドルの外資が流入している。しかし、これほど大きな資金が流入している割には、ロシア市場は強気の上昇相場とはなっておらず、MICEX指数は1300ポイント台で安定推移といった状況に止まっている。
VTB24のアナリストであるKleshev氏は、この1ヶ月間の外資流入額に匹敵する規模の資金が国内の市場参加者によって引き上げられたのだと考えている。
投資会社Capital Investment GroupのチーフアナリストであるKarykhalin氏も、同様の見解を示している。同氏は、「大規模な株式購入を仕掛けた取引参加者もいれば、大規模な売りに出た参加者もいた(国内投資家の可能性もある。)。そのために、市場は、膠着状態となっている。対外経済銀行が保有株式を利益確定売りに出した可能性もあるし、表には出てこないが、その他の大規模機関投資家がそうした動きに出た可能性もある。」と述べる。
AlorグループのアナリストであるLyukanova氏は、この4週間の中でも、11月26日から12月2日の最初の1週間に、外資流入が集中したと指摘している。この間の外資流入額は、1億2200万ドルである。同氏によると、同期間におけるMICEX指数は、11月の最低値(1200ポイント)から大きく上昇した。その後、MICEX指数は1300ポイント台で安定し始めた。これは、外資流入の動向と合致している。残りの3週間は、外部要因が安定していたこともあり、指数は横ばいであった。
Lyukanova氏は、「投資家は、1年の終わりを意識しており、長期休暇を前にして、投資リスクが増していると感じている。年末に、外部環境がどのように変化するかを予想するのは非常に難しい。」と述べている。
諸専門家は、これまで恒例であったお正月休暇明けの上昇をロシア市場で期待することは難しいのではないかと考えている。投資会社Capital Investment GroupのKarykhalin氏は、「株式の長期保有を避ける投機家の思惑以外に、原油市場の低迷も、ロシア企業の株式にとって、一定の圧力となっている。」と述べる。Lyukanova氏も、「ブレント原油価格は、80ドル/バレル近くにあったが、その後、大幅な修正が入り、71ドルまで下げている。」と述べる。
R Business-アセットマネジメントの金融市場分析官であるStoyanov氏は、今後は、直近1週間に出てきたドル高傾向が原油価格の上昇に取って代わるだろうと考えている。同氏は、「最近の統計が示しているように、アメリカの状況は、ヨーロッパより良い。そのため、ドル買いの動きが出てくるだろう。年末までに、ドル高基調が大きく変わるとは考えにくい。」としている。
しかし、Lyukanova氏は、年末にかけて、大きな売りがあるとは考えてはいない。同氏は、12月16日に発表されるFRB(米連邦準備制度理事会)の声明を投資家がポジティブと受け止めれば、年末にロシア市場が上昇することもあり得ると考えている(予測値は最大でMICEX指数が1380ポイント)。
では、結局のところ、正しいのは誰なのだろうか。今年の利益を確定する投機家か。それとも、今後の株価上昇に期待をかける投資家か。投資会社Capital Investment GroupのKarykhalin氏は、「多分、どちらも、正しい。投機家は、今年、多額の利益をあげることができた。彼らは、今より魅力的な価格水準で、再び、買いに入りたいと考えている。一方、長期的投資家は、世界経済、及び、原油価格、内需の回復を当てにしている。恐らくは、こうしたシナリオも、今後数年間で実現していくだろう。」と述べる。
R Business-アセットマネジメントのStoyanov氏は、遅くとも、2010年春には、国際市場でも、ロシア市場でも、上昇気流に乗ることができるだろうと考えている。同氏は、「米国市場が後5-10%上昇し、リーマン・ブラザーズが破綻する以前の水準に戻せば、明年2-3月にかけて、MICEX指数が1500ポイント台に到達する可能性は十分にある。」と考えている。
FINAM
2009_12_16L
イラクの石油開発に貢献するロシア企業
イラク油田開発の第2次入札の結果が明らかとなった。今回は、ロシア企業2社がイラクにおける大規模事業の権益を獲得した。ルクオイルは西クルナ第2フェーズ、ガスプロム・ネフチはバドラ油田の一部権益を落札した。
ルクオイルは、12年もの間、西クルナ油田第2フェーズの開発権を得られずにいた。ルクオイルとイラクは、1997年の段階で、契約を交わしていたのだが、イラクの新政府は、サダム・フセインがサインした文書を無効としたため、同油田の開発権は失効していた。ルクオイルのアレクペロフ社長は、「これまで、我々は、株主との約束を履行しつつ、イラクの開発権取得のために、努力してきた。今回、落札に至り、我々としては、ノルウェーのパートナーと共同で、イラク国民、及び、株主の利益のために、油田開発の責務を果たしていきたい。」と述べている。
ルクオイルは、石油開発を単独で行うわけでない。開発権益の15%は、ノルウェー企業スタトイル(Statoil)のものである。ルクオイルは、油田開発のオペレーター(操業者)となるが、生産した原油を販売することはできない。ルクオイルが得るのは、資源開発の補償費用に加えて、原油1バレルあたり約2ドル(若しくは、相当量の原油)の報奨である。Univer Capitalの分析調査官であるAleksandrov氏の試算によると、ルクオイルが得られるのは、昨年の売上高の5%以下に過ぎない。同氏は、「それも、2-3年後からの話である。従って、経済効果は薄い。ルクオイルが生産物分与協定に参加するか、或いは、単に採掘権が得られるのであれば、この開発事業も意義あるものになっただろう。西クルナ第2フェーズで想定されている原油生産量は、年間9000万トンである。つまり、ルクオイルがこの油田で採掘する原油の量は、これまで取得してきた全ての油田の原油生産量に匹敵する。」と指摘する。
他の専門家も、イラク油田開発の一部権益を得たことが、ルクオイルにとって、即、大きな成果であるとの結論は出してはいない。投資会社Otkritieでは、「ルクオイルとスタトイルの企業連合が比較的低いオペレーター報酬(1.15ドル/バレル)で合意したことで、長期的に見ても契約報酬額は小さくなった。参考までに、エクソンとシェルの企業連合が西クルナ第1フェーズの開発に提示した報償額は、1.9ドル/バレルである。」と述べる。
バドラ油田開発事業の30%を獲得したガスプロム・ネフチは、韓国企業Kogas(22.5%)、及び、マレーシア企業Petronasu(15%)、トルコ企業TPAO(7.5%)と共同で開発にあたるため、得られる利益は、昨年の収益の2%と、ルクオイルより小さい。ガスプロム・ネフチとしては、将来性のあるイラクの油田開発に満足の意を表している。ガスプロム・ネフチのZilbermints調査・採掘担当副社長は、「我々が締結したのは、業務委託契約とはいえ、所定の条件を勘案すると、バドラ油田の生産量を自社決算に含めることは可能である。また、イラク政府からは、採掘経費をカバーするための十分な補償費用も出る。今回のバドラ油田落札は、国外市場において、ガスプロム・ネフチの地位強化を図るという戦略を実現する上で大きな一歩である。」と述べている。
ガスプロム・ネフチのZilbermints調査・採掘担当副社長は、イラクの油田開発事業に参加する最大の理由について、国外での地位向上によって、投資家の関心を高めることが同社の狙いだと説明している。最近、ガスプロム・ネフチは、一連の大規模な資産を取得してきた。2009年4月、同社は、シェヴロンから、イタリア南部バーリに位置する油・潤滑油の生産工場、シェヴロン・イタリアS.p.Aを取得した。6月には、ガスプロム・ネフチの関係会社がOrton Oil社100%株式の売買契約を締結した。Unicredit SecuritiesのアナリストであるKonchin氏は、「このところの資産取得により、ガスプロム・ネフチは、原油生産量でロシア第5位の企業になった。また、ガスプロム・ネフチの石油製品加工率は69%でもっとも高い水準にある。これにより、同社は、外国市場より収益性の高い国内石油製品市場への製品出荷が可能となっているが、その反面、原油価格に対する反応が過敏になっている。」と指摘する。
ロシア企業にとって、イラク油田開発は特別な意味合いを帯びている。一方、イラクにとって、自国の石油資源開発が非常に重要な意義を持っていることは明らかである。ルクオイル、及び、ガスプロム・ネフチが獲得した油田は、世界最大級の油田で、西クルナ第2フェーズの埋蔵量は17億5000満トンで、バドラ油田の埋蔵量は20億トンである。諸専門家は、各石油企業が契約条件を履行して、イラク政府が入札にかけた油田10箇所の開発を開始すれば、イラクは、日量1200万バレルの原油が生産可能となると指摘する。これは、最大の原油輸出国であるサウジアラビアに匹敵する量である。また、イラクの原油生産量の増加は、原油価格の動向にも大きく影響する可能性があるだろう。
FINAM
2009_12_15L
温暖化対策はガスプロムにとって有利
IEA(国際エネルギー機関)は、12月7日からコペンハーゲンで開催される国連気候変動会議(COP15)で、温暖化ガスの排出削減に関する協定が締結されれば、ロシアとしては、非常に有利であると考えている。
コペンハーゲンで締結される可能性のある協定は、2012年に効力を失う京都議定書の後継となる。現在のところ、COP15参加国は、CO2排出量を削減する必要性については認めている。しかし、多くの専門家は、どれだけの量を削減するかということになると、合意形成は難しいと考えている。また、グリーン燃料への転換計画に多額の投資が必要となることも、協定締結の障害となっている。ロシアのトルトネフ天然資源相も、デンマークの首都で行われる会議で、参加国全てが排出量削減計画に最終合意するとは考えていない。同天然資源相は、コペンハーゲンでは、将来的な協定の策定に向けて取り組むことを規定する政治的合意のみで終わるだろうと見ている。
IEAのチーフエコノミストであるファティ・ビロル氏は、気候変動に関する会議の結果如何に関わらず、今後、ロシア産ガスの供給量は増加するだろうと予想している。同氏は、排出量削減に関する合意が交わされた場合、ロシア産天然ガスのEU諸国(ロシア産ガス最大の販売市場)向け供給量は1800億立方メートルに増加するだろうと考えている。また、合意が先延ばしになった場合は、2400億立方メートルまで増加する見通しである。2008年におけるロシア産天然ガスの輸出量は、1580億立方メートルであった。2009年の輸出量は、昨年の実績を下回っている。IEAは、2009年における欧州のガス需要を前年比9%減と予測している。
ガスは、石炭・石油よりも、環境にやさしい燃料である。従って、ガスの利用量を増加することで、CO2排出量は削減できる。また、ガスは、再生可能エネルギーより、手ごろである。ロシア地方環境センターの専門家であるDobrolyubov氏は、「現在、欧州における再生可能エネルギーの割合は、約10%である。もっとも、デンマークやドイツでは、再生可能エネルギーが20%に達している。しかし、再生可能エネルギーは、コストが非常に高く、技術もまだ発展途上という問題がある。」と指摘する。
IEAのファティ・ビロル氏によると、ガス需要を押し上げる一番の要素は、温暖化対策ではなく、経済成長である。EU各国の経済成長に、代替エネルギーの開発が間に合わない可能性がある。IEAでは、2020年までに、欧州経済は、年率2%のペースで成長すると予想している。
地球温暖化が天然ガス需要を喚起することになれば、ガスプロムの見通しは明るくなるだろう。ロシア産ガスの輸出を一手に引き受けているガスプロムだが、アメリカ、カナダにおけるLNG(液化天然ガス)需要の低下によって、事業計画に影響が出る可能性が出てきている。ガスプロムは、これまで、アメリカのLNG市場に大きな期待を寄せ、10分の1の市場シェア獲得を目標としていた。IEAの年次報告書の中には、「アメリカ、カナダで、非在来型天然ガスの開発が急速に進められてきたことで、近年、ガス市場は変化した。最新技術によって、シェールガスを含む非在来型天然ガスの生産性が向上し、生産コストが低下した。こうした追加的な生産がアメリカにおけるガス価格を下げる方向に働き、LNGの輸入需要も減退した。」との記述がある。
しかし、近い将来、非在来型天然ガスが在来型天然ガスと競合することはないだろう。第1に、採掘技術が発展しているのは北アメリカに限られている。第2に、その他地域における非従来型天然ガスの産地開発には、問題がある(ボーリング掘削に必要な大量の水が確保不可能、環境破壊、ガス輸送幹線からの隔絶)。IEAの予測によると、非在来型天然ガスの生産量は2030年までに2倍増の6290億立方メートルとなる見込みだが、その大半は、アメリカとカナダが占める見通しである。
アメリカ、カナダに対するガス輸出の必要性が低下する一方、国内生産量は増していることで、天然ガス価格に影響が及ぶ可能性がある。欧州、及び、その他地域の消費者が輸出業者に圧力をかけ、天然ガス輸出企業が原油価格との連動性解消を迫られれば、ガス価格は、低下するだろう。
また、ガス生産者が直面するだろう問題としては、新規開発の難しさや地質調査への投資不足が挙げられる。IEAの予測によると、エネルギー関連企業は、この1年間に、産地開発に対する投資を20%削減した。これは、将来的なガス生産量の増加に悪影響を及ぼす可能性がある。2030年以降に販売される産地開発には、もうすでに、投資が必要である。
しかし、好材料もある。IEAの予測によると、2030年までのガス需要の80%以上は、インド、中国、中近東が占める見通しである。こうした市場は、まだ、十分に参入の余地があり、ガスプロムが進出することもできるだろう。IEAの専門家は、インドや中国への供給については、ロシアが地理的に優位であり、他のエネルギー供給企業に対しても、強みになる可能性があると指摘している。
FINAM
2009_12_08L
プーチン首相:「最悪期は脱出。完全克服には努力が必要。」
12月3日、プーチン首相は、毎年恒例の生放送番組「ウラジーミル・プーチンとの対話・続編」で、国民の質問に答えた。今回、質問受付センターには、200万件以上もの質問が寄せられた。
プーチン首相は、ロシアのみならず、世界経済全体として、2009年は、非常に厳しい年であったと述べた。しかし、同首相は、金融危機の最悪期はすでに乗り越えており、経済にもポジティブな傾向が見えているとした。また、2009年におけるロシアのGDPについて、一部の専門家は10%の低下を予測しているが、8.5-8.7%の低下となる見通しであると主張。その上で、プーチン首は、金融危機を克服するには、まだ相当の時間、努力、資金が必要であるとの見解を示した。同首相は、「2010年の第1四半期、第2四半期には、まだ、実感として、金融危機が尾を引くだろう。」と述べている。
プーチン首相は、2009年通期としてのインフレ率が約9%とまずまずの数値になるのではないかと予想している。同首相は、「1998年の経済危機時と比較すると、当時のインフレ率は84%にも達していた。そして、当時、国民の貯金の殆どが失われた」と指摘。翻って、現在は、外貨準備高が再び増加に転じており、貿易収支も黒字であると言及した。プーチン首相は、「これらは、我々が問題を是正してきたことを示している。」と述べた。
プーチン首相は、2009年通期としての鉱工業生産のマイナス幅を13%と予測している。一方、一部のセクターについては、良好な実績が見込まれるとした。例として、農業セクターは0.5%、防衛産業セクターは3.7%、ロケット・宇宙産業は13%の成長率が予想される。
また、政府には、電力産業の発展に関する綿密な計画がある。プーチン首相によると、今後数年間で、ロシアには、30の原子力発電所が建設される予定である。また、既存の電力関連計画も、実行される見通しである。今後2年のうちに、ロシアには、10万メガワットの発電施設が導入される予定であり、プーチン首相は、順調なペースだと考えている。これにより、国内の石炭需要が伸び、石炭産業の回復につながるとしている。
プーチン首相は、公的支援の優先対象として、特に民間の航空機製造業を挙げた。政府は、統一航空機製造会社に対して、数10億ルーブルの資本注入を行っており、さらに、債務再建のために、460億ルーブルを拠出すると述べた。
政府は、2010年も、特に、地方自治体向けの各種機器買い付け計画を通じて、製造業に対する支援を継続する。この他、政府は、10年以上経過した中古車の買い上げに100億ルーブルを拠出する。また、プーチン首相は、欧州企業との提携により、ロシア企業の製品が刷新される見通しについても、ポジティブな見方を示した。同首相は、アメリカ企業と提携したカマズのエンジン生産を有望視している。また、プーチン首相は、アフトワズも救済可能であると考えている。アフトワズについては、世界基準レベルで、車種のモデルチェンジを図ることができる見通しがついている。プーチン首相は、政府が500億ルーブル、そして、ルノーが技術・設備・ノウハウを供与する形で、アフトワズの救済にあたることを説明した。
また、いわゆる企業城下町については、状況次第で、プーチン首相自身がピカリョヴォやその他の各都市に足を運ぶと述べた。しかし、同首相は、現在のところ、そのような必要性はないだろうと考えている。プーチン首相によると、近いうちに、ピカリョヴォで働く従業員は、2010年の契約を締結する見通しである。その上で、プーチン首相は、企業城下町の問題を根本的に解決するには、経済の多角化が必要だと述べた。
今回の「プーチン首相との対話」では、鉱工業セクターに焦点が当てられた。前回は、各市町村の特別質と中継が結ばれたが、今回カメラが設置されたのは、各企業の工場であった。そして、プーチン首相は、工場労働者に対して、何度も感謝の言葉を口にした。
また、プーチン首相は、社会環境の向上にも言及した。2009年には、年金の実質支給額が13-14%増額された。実質所得は低下したものの、0.4%の減少で済んだ。プーチン首相は、「我々は、国民所得を維持することができた。給与水準はほぼ2008年の水準にある。」と述べた。2010年には、年金支給額が46%増加する。これにより、最低生活費以下の所得しかない年金生活者はなくなる見通しである。この他、政府は、明年、住宅ローンの問題にも取り組み、金利を10-11%に引き下げるため、2500億ルーブルを拠出する予定である。
プーチン首相は、ロシア経済の大きな問題は、その非効率的な構造にあるとした。同首相は、「ロシアの経済構造はエジプトのピラミッドのようだ。力強いが、硬直的で、変化についていくことができない。」と例えた。
国民との対話で、話題に上った国際的テーマは、関税同盟の設立、及び、WTO加盟の予定に関することだった。プーチン首相は、ロシアにとって、最大の課題は、旧ソ連圏の統合であると言及した。同首相は、「関税同盟は、経済分野での成果はもちろん、実生活にも好影響をもたらすだろう。」と述べている。また、WTO加盟についても、ロシアの戦略的課題であるとしながら、アメリカを始めとする数ヵ国がロシアのWTO加盟を妨害していることに触れた。しかし、プーチン首相は、関税同盟を創設した後には、関税同盟、或いは、ロシア単独でWTOに加盟する考えを示した。
仕事に疲れていないか、休暇を取って家族と過ごしたくはないかという質問に対して、プーチン首相は、「引退は期待しないで下さい。」と手短に答えた。2012年の大統領選に立候補する可能性も否定していない。
FINAM
2009_12_07L
失業率:アメリカとロシアの動向
アメリカの金融危機は、少なくとも労働市場において、その勢いを増している。アメリカの失業率は、26年ぶりに10%の大台を超え、現在10.2%に達している。絶対数としては、約1600万人のアメリカ人が職を探していることになる。中でも、影響が大きいのは、若年層、非熟練労働者、黒人、ラテンアメリカ人である。こうした失業者は、政治にも影響を及ぼす可能性がある。景気低迷によって、特に打撃を受けているのは、昨年の大統領選挙で現在のオバマ大統領を支持した層であるからだ。
失業率の高さは、経済に深刻な影響を及ぼす。消費支出が低下することから、燃料の消費も減り、アメリカの原油需要が下がる。また、失業者は、社会的にも大きな弊害を生む(求職意欲を失った非正規雇用者を考慮に入れると、失業率は17%以上となる)。SovlinkのチーフアナリストであるBelenkaya氏は、「国民の消費支出の減少、及び、消費需要の低迷は、従業員削減によって企業の労働生産性が向上するといったポジティブな影響よりも、はるかに大きな悪影響を今後の経済回復に及ぼす。」と指摘する。
2桁の失業率は、アメリカ政府、及び、FRS(連邦準備制度)が景気刺激対策を継続する最大の要因である。SovlinkのBelenkaya氏によると、そうした対策の中には、雇用の創出も含まれてはいるが、重点が置かれているのは、年初に行われた税金還付、自動車・住宅の購入促進支援対策、ゼロ金利政策の維持といった需要拡大対策である。しかし、こうした支援策が取られていても猶、貸付需要は低下しており、家計の貯蓄率は上昇している。消費需要を押し上げることは、そう容易でないことが浮き彫りになっている。
SovlinkのBelenkaya氏は、「アメリカ経済の懸念材料は、2桁の失業率以外ばかりではない。予想を上回る失業率の悪化ペースも問題である。毎月の失業者率は、ほぼ毎回、予想以上に悪化している。アメリカの失業率がピークに達するのは、2010年半ばあたりだと予想されている。」と述べる。
運用会社FINAM managementのチーフエコノミストであるOsin氏によると、アメリカのGDP成長率の70%は、民間消費の伸びである。従って、失業率が引き続き高い水準で推移すれば、GDP成長率は、金融危機以前の水準より低くなるだろう。しかし、アメリカ経済最大の問題は、失業率ではなく、債務超過である。アメリカの累積赤字は、GDPの400%に達している。Osin氏は、この累積赤字の問題によって、アメリカ経済の成長は、長期的に阻害されるだろうと考えている。
さて、ロシアの場合、雇用局に登録している失業者数は、保険・社会発展省のデータによると、2009年11月25日現在で234万人である。この公式的な失業者数は、ロシア連邦63自治体で上昇しており、減少しているのは。わずか19の自治体のみである。現在、ロシアの公式的な失業率は、労働力人口の7.6%である。これは、ドイツと同等で世界でも低い方にある。ロシアよりも失業率が低いのは、日本(5.3%)とイタリア(7.4%)で、フランス(10%)、カナダ(8.4%)、イギリス(7.8%)の失業率はロシアより高い。
登録済みの公式的な失業者数は比較的低い水準にあるが、これとは別に、ILO(国際労働機関)基準の統計もある。これは、ロシア国家統計局のサンプル調査の枠内で行われる家計調査に基づいたものである。上の図からは、公式的な失業者数とILOが出している失業者数に400万人相当の差がついていることが分かる。ILO基準の2009年10月における失業率は580万人で、雇用局に登録している失業者の2.6倍となっている。
社会労働権利センターの社会経済プログラム局長であるBizyukov氏は、「ロシアには、公式的な性格を持った失業率がこの2種類しかない。後は想像の世界だ。評価がこれだけというのは不十分である。諸外国では、毎年労働力調査が実施されており、評価の具体的な土台があるため、より信頼性がある。」と述べる。
経済高等大学の労働調査センター副所長であるKapelyushinkov氏は、アメリカとロシアの失業率増加は、趣きが異なっていると指摘する。アメリカでは、失業率がGDPの低下以上に増加しており、アメリカ経済が金融危機の影響を大きく受けていることは明らかである。需要と生産が落ち込み、路頭に迷う人々も出てきている。一方、ロシアの状況は違う。生産の落ち込みは非常に大きかったにもかかわらず、失業者はそれほど増加していない。Kapelyushinkov氏は、「2008年11月から2009年11月の間に、GDPが10%低下したのに対し、失業率は1%の上昇で済んでいる。こうして比較して見ると、ロシアとアメリカの経済は全く異なる構造であることが分かる。ロシアには、雇用の急激な減少と失業率の増加を避けて、景気低迷に適応することができるメカニズムがある。」と述べる。同氏は、この先の見通しについて、さらなる経済的ショックがなければ、ロシアの失業率は、今年と同様の範囲に収まり、それ以上に増加することはないだろうと予想している。
ロシア保険・社会発展省の公式予測によると、2010年に、登録済み失業者数は220万人に落ち着く見通しである。登録済み失業者数と実質的な失業者数に400万人相当の開きがあることを勘案すると、明年の実質的な失業者数は650万人程とういうことになるのかもしれない。
FINAM
2009_12_04L